この蒼い空の下で 参
□バレンタイン
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お城へと帰りながら、今日がバレンタインだったことを思い出した。相変わらず日付感覚がぼやけたままで忘れてしまっていた(いっそのこと自分で見慣れたカレンダーを作っちゃおうかな)。
手に入らないだろうと思っていたチョコが幸運にも手に入った。だけど買ったものではなく貰ったもの。それを上げるのは相手に失礼だと思う。まして政宗はチョコを貰った現場に居たのだから貰ったことを隠すことも出来ない。最初から独り占めする気は無いけどバレンタインのことを思うと一緒に食べようと言うのも違うと思う。
「どうしよ」
「何がだ?」
「え? あ、もしかして声に出してた?」
「ああ。何か考え事か?」
「ん、んー・・・あのさ、人から貰ったものを送られても嬉しくない、よね?」
「このchocolateのことか?」
曖昧にぼかして聞いたつもりだったのに政宗には直ぐにバレてしまった。こうなったらもう隠していても仕方ないしと思ってバレンタインの説明を含め全て話した。
「へぇ。面白いeventだな」
「まあね。でも来月の同じ日をホワイトデーって言ってチョコを貰ったお返しをしなきゃいけないけどね。あっ、別にお返しが欲しくて政宗に上げたいって思ってるわけじゃないからね!」
慌てて弁明したら政宗は笑いながら分かってると言って私の頭をポンと軽く叩いた。笑い方が何て言うか、その、優しいって言うか甘いって言うか・・・。だからじわじわと頬が熱を帯びてきてしまって慌てて政宗から視線を逸らし前を向いた。
「美夜」
「な、なに?」
「ばれんたいんってのは送るのはchocolate限定なのか?」
「そんなこと無いよ。ネクタイとか手袋とかお酒とか、相手が喜びそうなものを送ることあるよ」
「なら帰ったら着飾れ」
「え?」
「お前は滅多に着飾ることをしねぇからな。だからchocolateの変わりにお前が着飾った姿が欲しい」
欲しい、なんて直接的な言葉にせっかく引いた頬の熱が何倍にもなって戻ってきてしまった。政宗の言う通り私は宴などの特別な時くらいし着飾らないから見たいと思う気持ちが分からないでもないけれど、だからって欲しいなんて言われたら私自身を欲しがってるようにも聞こえてしまう。
「嫌か?」
「い、嫌じゃ、無い、けど・・・あの、」
「うん?」
「見るだけで、良いの?」
私が着飾った姿を見るだけなんて政宗に何か得があるんだろうかと思って聞いただけなのに、なぜか政宗は良いことを聞いたとでも言いたげにニヤリと笑った。
「他にもrequestして良いってんなら・・」
「だ、駄目! 追加は駄目!」
「見るだけで良いのか聞いてきたのはそっちだろ」
「それは・・・。と、とにかく駄目なものは駄目! 目一杯着飾るから他は駄目!」
これ以上何か言われて強引に追加される前にと先に帰るからと言って政宗の返事を聞く前に走り出した。政宗のことだから絶対に私からキスしろとか恥ずかしすぎることを追加するに決まってるもん。
息を切らして帰って来た私に、侍女さん達はどうしたのかと不安げに聞いて来たけど、簡単にバレンタインの説明と着飾ることになったことを伝えると途端に眼を輝かせた。普段動きづらくて政宗から逃げられないし汚してしまったら嫌だからと私が着飾らないから彼女達も腕の振るい処が無かったのかもしれない。
やる気みなぎる侍女さん達に思わず腰が引けてしまうけれど、政宗にも目一杯着飾るからと言った手前逃げるわけにもいかない。覚悟を決めて侍女さん達に促されるまま走ったせいでかいた汗を流すためにまずはお風呂に入った。
お風呂から出ると私付きの侍女さん総出で飾り立てられた。あまり着飾らないから豪奢な着物が少ないことを侍女さん達から多少愚痴られながらもあれこれ意見を交わして着物とそれに合う帯を決めていった。侍女さん達が張り切って着飾らせてくれたから終わった時にはもう政宗は帰ってきていたから政宗の部屋に向かった。
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