この蒼い空の下で 参

□バレンタイン
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政宗と城下に遊びに来た時は必ずと言えるほど立ち寄るお店がある。そこは外国からの輸入品のみを扱うお店で、政宗の部屋にある外国製品の多くはここで購入したものらしい。今日も帰り掛けに立ち寄ったら店主のおじさんが大変に珍しいものが手に入ったと上機嫌でそれを見せてくれた。


「こりゃあ食い物か?」

「チョコレートじゃない?」

「さすがは美夜様。ご存知でいらっしゃいましたか」


一応、と付け足すようにごまかす。政宗が積極的に海外との交易を行い、入ってくる品に大きく興味を持って集めている関係で店主のおじさんはお城へ出入りすることもあるけどさすがにそれだけの関係のおじさんには私が異世界から来たことは秘密だからだ。


「お前が知ってるってことはsweetってことか」

「そう聞いております」


政宗が話を振ったことでおじさんの意識は私から逸れ政宗へと移った。ホッとしながら政宗に視線でありがとと伝え、チョコレートがどんなものかを政宗に説明するおじさんの手元を見た。

十個ほどあるチョコは箱の中に丁寧に並べて置いてあって、いかにも高級品ですという雰囲気。こっちの世界に来てから食べていないから久し振りに食べたいなとは思うけど、『大変珍しい品』と言っていたから雰囲気に合う値段だろうと思うと食べたいとは言い出せない。


「よろしければお持ちください」

「えっ」


チョコを見詰めていたら不意に箱ごと差し出された。戸惑っておじさんを見る。政宗も不思議に感じたのか理由を聞いてくれた。


「実は手に入れたは良いものの買い手が付かず困っておりまして・・」

「どうしてですか?」

「言いにくいのですが、見た目がどうにも土の塊にしか見えないと、どなた様も口に入れられるのを躊躇われるのです」


見慣れているからか私は首を傾げてしまったけれど、初めてチョコを見た政宗は納得出来るみたいで、だろうなと頷いていた。


「食べ物故長く店に置いておくわけにもいきません。美夜様は食されたことがおありのご様子。このまま腐らせてしまうよりも価値を知る方に食して頂いた方がこのちょこれいとなる甘味も喜びましょう」

「でも・・」


値段を考えるとどうしても躊躇ってしまう。どうしようとチョコを見ていたら横から腕を伸ばした政宗が私の変わりにチョコを受け取った。


「政宗?」

「さっきから食べたいって顔してんだから貰っとけ。それに、ただで美夜にやるってことはそっちにも裏があるんだろ?」

「え?」


意味ありげな政宗の視線を受けたおじさんは裏とは滅相も無いとゆるく頭を横に振った。


「裏などございませぬ。ただ今後とも私どもをご贔屓にして頂ければと思っているだけでございます」


人の良い笑みを浮かべて頭を下げたおじさんを見て、政宗はやっぱり裏があるじゃねぇかと肩を竦めた。そしてそっちが変わらない限りはこっちも変える気は無いとよく分からないことをおじさんに向かって言うと私を促して店を出た。政宗の手にはチョコの箱が乗ったまま。本当に良いのかなと思いながらもおじさんにお礼を言って政宗の後を追って私もお店を後にした。


「ほんとに良かったのかな? これ絶対高いよ?」

「気にすんな。向こうもちゃんと元は取ってる」

「どうやって?」

「この間同じように交易品を扱う店が出来たんだよ。つまりあの店にとってはrival店ってことだな」

「あ、だから『ご贔屓に』ってことなんだ」

「そういうことた。城に出入りの店か否かは商売人にとっちゃあデカイ意味があるからな」


さっきの政宗とおじさんの会話の意味がようやく分かって、高いだろうチョコをただで貰ってしまった申し訳なさや後ろめたさが薄くなった。人の良い笑みを浮かべていたけどあのおじさんもやっぱり商売人なんだなぁ。


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