この蒼い空の下で 参

□桜
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「綺麗だね」

「ああ。ずっと見てても飽きねえ」

「うん」


はらはらと薄紅の花弁を散らす満開の桜を見上げながら頷き返す。気持ち良いほどよく晴れていて、風も時おりそよ吹く程度で文句無しのお花見日和。

少し離れた所では侍女さん達が和やかに談笑し、別の場所では小十郎さんと綱元さんがお酒を酌み交わし、そのさらに向こう側では成実さんを中心に兵士さん達が樽酒を囲みながら歌え踊れと大盛り上がり。

みんなからは少しだけ離れた場所に緋毛氈を敷いて作られたこの場所に居るのは私と政宗だけ。政宗と二人きりだと知った時はせっかくみんなで来たのにという残念な気持ちと政宗に何されるか分からない心配と、満開の桜の下で政宗と二人になれるドキドキと嬉しさといろんなことを思った。

だけど、時間が経って残ったのは少しのドキドキと嬉しい気持ち。多少離れてはいても時おり声が漏れ聞こえてくる程度には近い場所にみんなが居ることでみんなでお花見に来ている感覚を少しは感じられたことと、政宗が何かしてくる素振りを欠片も見せなかったからだ。

政宗お手製の美味しい料理にお団子や落雁といった甘味を食べつつ政宗のお酌をし、他愛もない話に花を咲かせる。穏やかで、でもだからこそ素敵な時間。


「ねぇ政宗……」


来年も再来年もその先もずっと、みんなでお花見しようねと、そう言おうとした声が途中で止まる。桜から政宗へと移した視線が蕩けてそうなほどに甘くて優しい政宗の視線と合わさったからだ。

ついさっき交わした会話が脳裏で再生される。


『綺麗だね』

『そうだな。ずっと見てても飽きねえ』


まさか、ね。うん。無い。そんなわけ無い。うん。


「どうした?」

「う、ううん。何でも無い!」


違っていたらただの自意識過剰。もしも本当に【そう】だったなら恥ずかしいなんてものじゃない。だから笑って誤魔化すと跳ねる鼓動を静めようとお茶を飲んだ。政宗は自分の視線がどれだけ私を悩ませるのかを知るべきだと思う。私から話すのは恥ずかしいから絶対に無理だけど。

なんてことを思いながら他の人達の様子を伺う。小十郎さんと綱元さんは変わらず静かにお酒を酌み交わしていて、まだ若い小十郎さんには悪いけど、渋さ漂う雰囲気がおじ様好きにはたまらないだろう感じになっている。侍女さん達はさすが礼儀作法のしっかりした人達。楽しそうなんだけど淑やかな雰囲気もあって淑女の女子会みたいな感じだ。

一方、成実さんと兵士さん達の集団はもはら桜そっちのけ状態になっていた。腹踊りをする人がいれば一方では筋肉自慢をしあう男達が居るし、人相悪くガンを飛ばしあっていたかと思うとなぜか突然がっしと肩を組み合い人達もいる。まさに混沌といった感じ。


「わっ」


突然政宗に手で視界を塞がれた。直前に見えたのが青い顔で口許を押さえて桜の木に手を突き前屈みになったスキンヘッドの兵士さんの姿。だから政宗の突然の行為が優しさからだと直ぐに分かったから、黙って顔の向きを変えると手も直ぐに離れた。やっぱりお酒は飲み方が大切だ。

その点政宗は安心だ。勝負事が関わらない限りはたくさん飲んだりしない。いつも私がお酌をしているから分かる。酔って変に絡まれる心配が無いのも嬉しい。そういえばと、ふとした疑問が浮かんだ。


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