この蒼い空の下で 参
□特別
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「わっ」
特に目的も無くぶらぶらと城下の大通りを歩いていたら突然後ろから伸びてきた手が首に巻き付き後ろへと引かれた。重心が傾いた体は背後の人物に支えられる。
「よぉ美夜」
仰向けばいつもの不敵な笑みを浮かべて私を見下ろす政宗の顔。いきなりこんなことしてくるのなんて政宗くらいしか居ないから特には驚かないんだけど、別のことが気になった。
「視察に行ったんじゃなかったの?」
「予定してたより早く終わったんだよ」
「ふぅん」
今は昼を少し過ぎた頃。出掛ける時には夜遅くなるって言っていたから随分と早い。よほど順調に済んだってことなんだろうか。
「ねぇ。そろそろ離してほしいんだけど」
「何をだ?」
「分かってるくせに聞くな!」
政宗の腕を掴んで力を込めて無理矢理引き離す。思っていたよりあっさり離してくれたからちょっと拍子抜け。いつもなら中々離してくれないのに。
そういえば、さっきも顔が近かったのに全然ドキドキしなかった。
なんで?
「どうした?」
「あ、うん・・・」
頭のてっぺんから爪先まで、政宗の全身を見る。朝出掛けて行った時はそれなりの格好をしていたけど今は濃いめの青の着流し姿。朝と違う所はそれくらいで、釣り上がり気味の眼も余裕たっぷりの不敵な笑みもどこをどう見ても政宗だ。
「ごめん。何でも無い」
「そうか? なら歩くぞ。いつまでも立ち止まってんのは邪魔になるからな」
そう言って政宗は私の手を取り歩き出した。途端に何か違和感を感じたけれど、それが何なのか分からない。分からないから気分がもやもやする。
「どうした。腹でも減ってんのか?」
「え?」
「眉間に皺が寄ってんぞ」
思わず眉間に触れるけど、思考を中断された今はもう皺は無い。違和感の正体は気になるけど考えても分からないから後にしよう。政宗と一緒にいる時は政宗に注意しておかないといつセクハラやイジメをされるか分からない。
「ちょっと考え事してただけ。気にしないで」
「そうか」
「うん。あ、良い匂い」
どこからか醤油の焼ける香ばしい匂いが漂ってくる。スンスンと嗅いでいたらククッと政宗に笑われた。
「何よ」
「子犬が居ると思っただけだ」
「犬じゃないし子って付けるな!」
怒っても政宗にはどこ吹く風。それどころかよしよしと言いながら撫でてくる始末。ムカついたから足を蹴ってやろうとしたけど避けられてしまった。ちくしょう。
「団子奢ってやるから機嫌治せ」
「誰のせいでムカついてると思ってんのよ!」
ふんっとそっぽを向いて政宗を置いてお団子屋を探した。匂いを頼りに見付けると、自分達が食べる分の他に小十郎さんや侍女さん達へのお土産分もお団子を注文して、後を着いて来てた政宗に払わせた。
案の定政宗は二人分だと思っていたみたいで、提示された金額に驚き軽く私を睨んできたからふふんと笑い返してやった。
私を子犬扱いした罰よ!
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