この蒼い空の下で 参

□蛍
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火種が無くて灯台に火を燈せないから、月明かりを頼りに着替えを済ませると皆を起こしてしまわないよう足音に気をつけながらも走って門に向かった。

同じように着替えを済ませた政宗がちょうど馬を引いてきた所で、私がちゃんと着替えたことを確認すると私を鞍に座らせ自分も跨がった。

門を潜る時に、見張り番の兵士さんにこんな時間にどこへ行くのかと心配されたけど、蛍を見に行くのと伝えると「楽しんできてくだせぇ」と言って送り出してくれた。

政宗が向かったのは小十郎さんの畑で、横を流れる小川を中心にたくさんの蛍が飛んでいた。


「うわぁ、凄い!」


数え切れないほどたくさんの蛍が、草木の上や宙で明滅を繰り返している。

政宗がゆっくりと馬を進ませると、最初は逃げていった蛍も、しばらくすれば戻ってきて私達の直ぐ近くを飛び交う。


「あ」


馬の鬣に一匹止まった。耳にも一匹。でもくすぐったかったのかぶるると頭を振ったために蛍は逃げてしまった。


「美夜、こっちにも止まってるぜ?」

「え? あっ」


振り向いたら目の前を蛍が横切った。私の肩に止まっていたみたい。

その蛍の行方を目で追っていたら、ふいに視界を遮られた。熱いものが唇を塞いでいる。ぱちぱちと瞬きを繰り返す私の前に、一匹の蛍が飛んできて政宗の髪に止まった。


「美夜、どこ見てる。目ぇ閉じろ」


囁くような声で言いながら政宗が少し顔を動かしたから、蛍はどこかに行ってしまった。


「今、政宗の髪に蛍が・・」


飛んでいった蛍を追い掛けようとしたら、頬に手を添えられ引き戻され、また唇を塞がれた。今度は触れるだけで離れた。


「蛍も良いが、今は俺を見ろ」


その言葉と、至近距離から私を見つめる熱っぽい眼差しに鼓動が跳ねた。頬に熱が集まるよりも先に三度、唇を塞がれる。

蛍にばかり向いていた意識を強引に変えられ、政宗にキスされていると頭が理解すると恥ずかしさに逃げだしたくなった。

胸に手を着いて離れようとすれば抱きしめられ、顔を背けようとすれば顎を捕われる。触れ合っている唇が熱い。

苦しくなると、それに気付いたかのように熱が離れた。酸素を求めて喘ぐ。でもまた直ぐに塞がれてしまう。


「んぅ・・」


無防備に開けてしまった隙間から更に熱いものが咥内へと侵入してきて、反射的に逃げた私のものを絡め取り翻弄する。

触れた場所から注がれ伝わってくるものがある。だけど、それは私にはまだ受け止めきれないほど激しくて、目を閉じているのにくるくると視界が回っているように錯覚する。縋り付くように政宗の胸元を掴む手が震えた。


「ふぁ・・は、ぁ・・・」


意識が落ちそうになって、やっと解放された。でも、はぁはぁと荒くなった呼吸を奪うように啄むようなキスを繰り返される。


「も、や・・・。だめ・・」


頭も心もいっぱいいっぱいで、限界をとうに超えている。これ以上は本当に、体が持たない。

ふ、と微かに笑った政宗が、「Lastだ」と囁いてちゅ、と音を立ててキスをした。

熱い。顔も、体も、どこもかしこも熱い。眠りを妨害した熱さとは違う種類のこの熱は、政宗が側にいる限りそう簡単には引いてくれない。

逃げようにもここはお城の外。でも、例え室内だったとしても逃げられなかったと思う。体中の力まで奪われてしまっている。

政宗に背を向け俯く私と、そんな私をそっと抱きしめる政宗の周りを無数の蛍が飛び交う。

明滅を繰り返し、夜闇を飛び交う夢のような幽玄の光は、来た時と何も変わらない美しさ。

でも、私の唇に今もまだ、鮮烈なまでの熱と唇の感触が残っている。それがあの濃密過ぎる触れ合いが夢では無いのだと私に伝えてくるから、蛍を楽しむ余裕はもうどこにも無かった。



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