この蒼い空の下で 参

□蛍
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蒸し暑くて寝苦しい。中々寝付けない。何度も寝返りを打っては何とか寝ようと頑張ってみたけど上手くいかない。寝よう寝ようと思えば思うほど、頭が冴えてしまう。


「だめだ。眠れない」


結局眠ることを諦め、手探りで見つけた扇子を片手に外に出た。縁に腰掛けながら扇子で仰ぐけど、湿気を多く含んだ空気は涼しさを与えてくれない。

扇風機やクーラー、冷たい水にアイスクリーム。

考えるなと思っても、こう蒸し暑いとどうしても考えてしまう。ああでも、冷たい水なら。

井戸から汲み上げたばかりの水は冷たくて気持ち良い。桶いっぱいに汲んでしまうと重くて一人で汲み上げるのはかなり大変だけど、顔と手足を洗って手ぬぐいを濡らすくらいなら少しあれば十分足りるだろう。

部屋に戻って手探りで手ぬぐいを探して部屋を出た。白小袖の上に何か羽織らないと誰かに会ったら何か言われてしまう。

私自身は白小袖は浴衣みたいなものという認識が抜けきらないから見られても恥ずかしいとは感じないけど、周りからすれば白小袖は下着に近いらしい。分かってはいるけど暑いからこれ以上何も身に着けたくない。

誰にも会わないように気をつければいいよねと考え、コソコソと移動していたら視界の端ですぅ、と光が動いた。蝋燭や松明の明かりとは違う、黄緑っぽい光。

幽霊は青白い光が定番。だから大丈夫!

そう思っても、何の光か分からないからやっぱり怖い。また光が視界に入った。恐る恐るそっちを向くと、ふわふわと一つだけ浮いている光は明滅を繰り返していた。

その光景に、もしかして、と思った。目を凝らせば黒っぽい虫のお尻が光っていたのだと分かった。


「蛍だ」


初めてみる。生まれ育った所でも、じいちゃんが子供の頃は当たり前のように毎年見ることが出来たらしいけど、私が子供の頃にはもう見られなくなっていた。

光の招待が蛍だと分かればもう怖くない。辺りを見回し踏み石の上に草履があるのを見付けると、それを履いて庭に降り、時折草木に止まりながらもふわふわ飛ぶ蛍を追い掛けた。


「こんな時間になんつー格好で出歩いてる!」

「わっ」


声量を抑えた怒声とともに、急に後ろから抱き寄せられた。振り向けば不機嫌そうに眉を寄せた政宗だった。蛍を追い掛けるうちに、政宗の部屋の前まで来ていたらしい。


「政宗、見て。蛍が飛んでる」

「蛍なんざ珍しくもねぇだろ」

「そうなの? じゃあもしかして去年も飛んでたの?」

「Ah? お前まさか見るの初めてなのか?」

「うん。私の居た世界じゃ清流って言われるくらい綺麗な川に行かないと見られなかったから」


遠くに行ってしまった蛍を追い掛けようとしたけど、政宗に肩に担ぎ上げられてしまった。


「政宗!?」

「蛍が見てぇならたくさん居る所に連れてってやる。だからその格好でうろつくな」

「政宗だって同じじゃん」

「俺は男だから良いんだよ」


狡い、と言おうとしたら降ろされた。私の部屋だ。まだ蛍見たかったのにと不満に思っていたら、政宗は「着替えたら門のとこに来い」と言ってから去っていった。

今から蛍を見に連れて行ってくれるんだと分かって嬉しくなった。


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