この蒼い空の下で 参
□羨望
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【42 以降の話】
「梵て実は枯れてんのかな」
「・・・馬鹿だ馬鹿だとは思っていましたが成実は本当に戦時以外は鳥以下の頭ですね」
「ちょっと質問しただけでスゲェ酷ぇこと返ってきた!」
「私は鳥以下に付き合っているほど暇ではないんです。用が無いなら出て行ってください、鳥以下」
「名前みたいに鳥以下って連呼すんなよ! それにちゃんと用ならあるよ。ほら、これ。小十郎から」
たまたま頼まれた小十郎からの書簡を渡すと綱元は中身をザッと読んで頷いた。
「ご苦労様です。鳥以下でもお使いは出来るようですね」
「だからその鳥以下って止めてくれって! 別に俺梵をけなしたくて言ったわけじゃねぇんだからさ」
「では何の意味があってあのようにくだらないことを言ったんです」
「だってさぁ、梵ってしょっちゅう美夜ちゃんの体触ってんじゃん? ちょっと前ならまだしも美夜ちゃんのことが好きって自覚してんのにあんなことしててムラッとこねぇのかなぁ、って思ったんだよ」
「誰も彼もが成実のように色欲しか頭にないわけではありませんよ」
「時々思うけど俺って嫌われてんの? そりゃたまに遊郭には行くけどそれしか頭にないわけじゃねぇから」
「そうでしたか。それはすみません」
「ははっ、気持ち篭ってねーし」
さすがの俺も涙出そう。
「落ち込むのは勝手ですが私の部屋ではしないでください。鬱陶しい」
「へーへー、鳥以下の俺は去りますよー」
「成実」
「何だよ」
障子を開けかけた手を止め振り返る。
「共に殿に仕える者として、私は貴方を信頼していますよ」
それがさっき俺が言った嫌われてる発言に対する答えだと気付き、不覚にも涙が出そうになった。
「綱元、俺もお前のこと信頼してるぜ!」
「ありがとうございます。ではこれを小十郎に渡しておいてください。先程の返事です」
「・・・・・・泣いてい?」
体よく使い走りに利用されてる気がするんだけど。ちょっとだけ寂しい気分になりながらも断る理由も無いから綱元から書簡を受け取って部屋を出た。この時間なら小十郎は梵の執務を手伝ってる頃かな。
思った通り小十郎は執務室に居た。綱元から預かった書簡を渡しながら室内を見回す。
「梵は?」
「おそらく美夜の所だろう」
「小十郎が政務置いて行かせるなんて珍しいじゃん」
「お前は俺を何だと思っている。それに政宗様は政務をあらかた終えられてから向かわれた」
「もう終わらせたのか?」
「ああ。最近は早く政務を片付けられる。それだけ美夜との時間を作られたいのだろう」
「ふぅん」
昔は小十郎の目を盗んで出掛けることもあったくらいなのに、梵も随分と変わったなー。
「あ、ちょっと聞きたいことあるんだけどさ」
部屋を出ようとしていた小十郎を引き止め、綱元の時と二の舞にならないよう言葉を選んで聞いた。
「梵てさ、美夜ちゃんを抱きたいとか思わねぇのかな? 我慢してるだけだとしたらなんで出来るのか知ってる?」
「それくらい政宗様を見ていれば分かることだろう」
くだらねぇことを聞くなと言って小十郎は今度こそ立ち去った。
梵を見ていれば、か。
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