この蒼い空の下で 参
□卯月
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「小十郎さん、綱元さん。ちょっと聞きたいことがあるんですけど良いですか?」
「俺達二人にか?」
「なんでしょう?」
まずは二人にエイプリルフールの説明をしてから(小十郎さんは変わった日だなって。綱元さんは面白い日ですねって)、本題の政宗を騙すにはどんな嘘が良いか聞いた。
「それはまた、難しい相談だな」
「そうですね。美夜さんは裏表の無い純粋な方ですから、そんな方が人を騙すとなるととても難しいですからね」
じ、純粋って。なんか照れるなぁ。悪い気はしないけど。てかむしろちょっと気分良い。嬉しい。成実さんはこーゆー配慮が無いからダメダメなんだよ。
「美夜、小さな嘘ならいけるんじゃないか?」
「えー! どーせならおっきい嘘が良いです。バラした後に政宗が派手に悔しがるくらいの!」
そんな政宗を想像しようとしたけど出来なくて、ますます大きな嘘で騙したくなった。
「小さなものでも殿は十分悔しがると思いますよ」
「どうしてですか?」
「恐らく殿は美夜さんがご自分を騙すことが出来るとは思っておられないでしょうから、小さな嘘でもうまいこと騙されたと分かれば悔しがると思うんです」
「なるほど」
一理あるかも。綱元さんが言うように政宗は私に騙されることは絶対に無いって感じだったもんなぁ。よし、大きな嘘で騙せないのはちょっと、ていうか大分心残りだけど重要なのは政宗を悔しがらせることだもんね。
「分かりました! 小さい嘘で騙してみます!」
「頑張ってください」
「ほどほどにな」
お礼を言ってから二人と別れた。やっぱり相談するなら小十郎さんと綱元さんね。成実さんと違って否定したり馬鹿にしたりしないもん。それどころか応援してくれたし。
政宗の部屋に戻る途中、政宗にお茶を運ぶ所だった侍女さんと会ったから変わってもらった。
「政宗、入るよ?」
「やっと新しい嘘でも浮かんだか?」
「うっ」
そーいや宣言しちゃってたんだった。ニヤニヤ笑う政宗の顔を見られなくて、気まずい気分になる。だけどお茶を置かないわけにはいかないから政宗の側に膝を突いた。
でも、おかげで湯呑みを手渡す時に良い嘘が浮かんだ。綱元さんのアドバイス通りに小さな嘘だ。ドキドキしながら政宗が湯呑みから口を離すのを待つ。
「美味しい?」
「ああ」
「それ私が入れたんだよ」
「お前が?」
「うん」
頷きながらも政宗が驚きの表情を浮かべたことが嬉しくて顔がにやけそうになってくる。
一息にお茶を飲み干した政宗が湯呑みを置いて、私の頬に手を当ててきた。それだけでドキドキして頬が赤くなっていくのが分かる。目も見られなくて膝に置いていたお盆を見つめる。
「美夜」
「な、なに?」
「入れ直してきてくれるか?」
「い、良い、けど」
「今度は本当にお前が入れろよ?」
「う、うん・・・・って、え?」
今、なんて・・・。
ドキドキも吹っ飛んで政宗を見たら、ニヤニヤと意地悪な笑い方をして私を見てた。また失敗!? なんで!? アドバイス通りの小さな嘘だったのに!
「なんで分かったのよ!」
「お前を見てりゃ一目瞭然なんだよ」
「何それ! その言い方何か嫌なんだけど! あんな小さな嘘でも騙せないくらい私が単純みたいじゃん!」
「単純っつーより馬鹿正直なだけだろ」
「馬鹿は余計、っ」
身を乗り出したら目の前に湯呑みが突き出されて勢いを削がれた。
「な、なに?」
「さっき言っただろ。美味い茶をお前が入れてこい」
ニヤニヤ笑う政宗を睨みつけ、引ったくるように湯呑みを奪う。そんなに言うならほっぺたが落ちるくらい美味い茶を入れてやるわよ!
って意気込んだけど、結果は「まあまあ」。まずくはないけど美味いと言えるほどでもないという中途半端な評価。
くっそー! こうなったら意地でも美味しいお茶を入れられるようになってやる! ほっぺた落ちちゃっても知らないんだからね!
終