この蒼い空の下で 参

□春
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―――――

ふっと目を目を開ける。部屋の中は薄暗く、差し込む陽射しは橙を帯びている。寝たふりをして美夜をからかうつもりがどうやら本気で寝てしまったらしい。

それだけ美夜の存在に安らぎを感じてるってことか。


「お、起きたの?」


声が震えていたのが気になって顔を覗き込めば、熟れた林檎並に顔を赤くした美夜の目が今にも泣き出しそうなほどに潤んでいた。


「Ahー・・・。もしかして寝てる間に何かしちまったか?」

「べ、別に、何もない。ね、寝てたなら、仕方ない、し」


そう言って腕を突っ張って俺から離れた美夜は首筋を手で押さえた。その行動を見て美夜の首筋に顔を埋めたまま寝ちまったことを思い出した。

反応を楽しんだら寝たふりをやめるつもりだったからした行動だったが、そんなことを知らない美夜からすればある意味拷問のようなものだったんだろう。

そこまで恥ずかしかったなら無理矢理にでも離れりゃいいだろうに。それをしなかったのは俺を起こしたくないって優しさからか。

訴えてこないのも同じ理由だろう。それに気付くとさすがにこれ以上からかうのは止めておくかという気分になった。


「寒くねぇか?」

「だ、大丈夫」


まだ引かない顔の赤みを見る限り、確かに寒さは感じていなさそうだがそれでも外の暗さを考え落ちたままになっていた上着を肩に掛けてやった。


「ありがと。政宗は寒くない?」

「この程度なら平気だ」

「そなんだ」


いざとなりゃ美夜を抱きしめるだけだと俺が考えていることを知ったらこいつは逃げ出すんだろうな。それも馬鹿だの変態だの叫びながら。惚れた女に触ることの何が悪ぃってんだ。


「ちょっ、なんで睨むの?」

「想像したらムカついただけだ」

「何想像したのか知らないけどだからって私を睨まないでよ! 政宗のそーゆー顔ってかなり怖いんだから!  てか私睨まれるようなことしてないんだからそれって八つ当たりじゃないの!?」


今はしてなくてもしょっちゅうしてるだろうが。ちったぁ逃げるのを止めろ。捕まえるのも追い掛けるのもそれはそれで楽しいがたまにはそれ以外のこともしてぇんだよ。

さらに苛々し始めた時、あることに気付いた。いつものこいつなら俺が起きた時点でこの部屋から走り去ってるはずだ。なのに今日はここに留まっている。なぜかは分からねぇが、せっかくのChanceを逃す手はねぇ。

調度良く明かりを燈しに来た侍女に美夜の意識が逸れた時を見計らい、腰を浚って腕の中に閉じ込めた。暴れるのを見越して最初から強めに抱きしめたおかげで美夜は直ぐに抵抗するのを諦めた。

恥ずかしそうに胸に顔を埋める姿に愛しさを感じる。髪に顔を埋めればぴくりと跳ねて小さく唸った。髪から覗く耳が赤い。


「なぁ美夜」

「な、何よ」

「近いうちに遠乗りにでも行くか?」

「と、遠乗り?」

「今日みたいな天気の日は出掛けたいと思わねぇか?」

「思う、けど・・・」

「何か気になることでもあるのか?」

「政宗の馬の扱い怖い」

「景色を見に行くんだ。走らせることはねぇよ」

「絶対?」

「ああ」

「セクハラもしない?」

「しねぇ」

「政宗が素直だ! まさか寝過ぎて脳みそ溶けたとか!?」

「テメェ、どうやら犯されてぇらしいな」


若干低めに声を出して顎を掴んで顔を近付けた。顔を赤くしながらも怯えるという器用なことをしてのけた美夜は早口で謝ってきた。それでも離す前に頬にキスをしたら恥ずかしそうに俯いて頬を押さえ、その姿に溜飲も下がった。


数日後、約束通り遠乗りに出掛けた。何を勘違いしていたのか二人きりと知って不満を見せた美夜への仕返しに馬を走らせたり、懐かしいと言って白詰草で作った輪になった冠を勝手に俺の頭に乗せてきたくせに似合わないと笑い転げやがった美夜をその場で押し倒して首筋に跡を付けてやったりなど多少の騒ぎはあったが、それ以外は楽しそうに笑う美夜を見れた最高の一日だった。



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