この蒼い空の下で 参
□正月
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本日は正月餅搗き大会! 大会って付けたのは雰囲気なんだけど。
厨で蒸されたもち米を中庭で兵士さん達が搗いていく。周囲には蒸されたもち米の良い匂いが漂ってるし、餅を搗く兵士さんたちの威勢の良い掛け声も響いてる。
「ねぇ、ちょっとだけ私にもやらせてくれない?」
「え!? ひ、姫さんがっすか!?」
「うん。だめ?」
杵を持つ兵士の一人(リーゼントだから搗くたびに髪がたゆんたゆん揺れてちょっと笑える)にお願いしたら最初は渋ってたけどもう一度お願いしたら杵を貸してくれた。見てたら楽しそうだったんだよね。
「わ、思ったより重い」
「だ、大丈夫っすか!? やっぱり俺がやるっす!」
「大丈夫大丈夫。そこまで非力じゃないから」
リーゼントの兵士さんと餅を返す役をやってたスキンヘッド(冬だと寒そう)の兵士さんが慌てだしたのにひらひら手を振って答えた。それでもオタオタする彼等に大丈夫ってことを示そうと足を踏ん張って気合いを入れて杵を振り上げる。
「何やってんだ」
「ぅわっ!」
振り上げた瞬間に背後から掛けられた声に驚いて杵を掴む力が緩んだ。だけど重い杵は私の手から離れる前に背後から伸びた手に支えられた。
「危ねぇな。気をつけろ」
「ま、政宗が声掛けなきゃ大丈夫だったの!」
「それだけで驚き過ぎなんだよ」
政宗はリーゼントの兵士に杵を返すと私の手を掴んだ。それを素早くペッ! と離す。途端に不機嫌になった政宗が何なんだという感じに私を睨んできた。
だけど私にだってなんでそんなことをしちゃったのかよく分からない。別に触られるのが嫌だったわけじゃないんだけど、掴まれた瞬間に無意識に体が動いちゃったのだ。
「なるほどな」
さっきまで不機嫌だった政宗が、今度はニヤニヤ笑い出した。なにがなるほどなのか分かんないけど、なんだか嫌な予感がして直ぐさまその場から逃げた、けど。
「んぶっ!」
「鈍臭ぇなぁ」
「う、うっさい! 雪の上を走るのに慣れてないのよ!」
年末に掛けてどっさり降った雪で見事に足を滑らせた。生まれ育った所じゃたくさん降っても一日二日で解けちゃうくらいしか降らない。だけどここじゃ雪掻きが追いつかないくらい降る。
スキー場に行ったこともないから雪になんて当然慣れてない。だから滑ったって仕方ない。仕方ないとは思うんだけど、豪快に滑って転んで雪の中に頭から突っ込んだ所を政宗に全て見られていたかと思うと猛烈に恥ずかしい。
「おら、手ぇ出せ」
「い、いい。自分で立てる」
差し出された手を見ただけでなんでか胸がドキドキした。ぷぃっと顔を逸らして自力で起き上がるために手を突いて体を起こす。
「美夜」
「何、んぷっ」
呼ばれて顔を上げた瞬間に顔面に冷たい雪が大量に当てられた。ぼたぼたと雪が落ちてクリアになった視界の先にはニヤニヤ笑う政宗。
「何すんのよ!」
「顔が赤かったから熱でもあるのかと思ったんだよ」
「だからってあんなことしなくても良いじゃな、ぅわぶっ!」
同じことを仕返してやろうと両手いっぱいに雪を掬って投げつけてやったのにあっさり避けられた。そのせいでバランスを崩してまた頭から雪に突っ込むはめに。政宗の笑い声がものすっごく癪に触る!
「いつまでもそうしてっとマジで風引く、っ!」
抱き起こしてくれた政宗の衿を素早く引っ張って掴んでた雪を入れてやった。ざまーみやがれ! 声出さなかったのだけは残念だけど。うひゃぁ! とか言ったら大爆笑してやったの、
「うひゃぁっ!」
雪の冷たさに驚いて政宗が私を離した隙に逃げようとしたら、襟首を引っ張られて背中に雪を入れられた。政宗から聞きたかった叫びを自分が言っちゃったこととやり返されたことがダブルで悔しい。ちくしょう!
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