この蒼い空の下で 参

□温泉
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【29 〜 30 辺りの話】


「おぬしは温泉は好きか?」


夕方、お館様が部屋に来てそう聞いてきた。温泉は大好きだから頷いたら、では今宵楽しみにしておれ、って。

部屋にはちょうど幸村も居たから幸村も一緒? って聞いたら破廉恥と叫んでどっかに走って行っちゃった。しかも障子を破壊していった。寒いんだけど!

てかさ、私、一緒に入る? とは一言も行ってないんだけど。幸村は実はムッツリなんじゃなかろうかと疑惑が浮かんだ。

陽が暮れた頃、出発するぞとお館様が迎えに来た。屋敷内で入るわけじゃないみたい。馬に乗ってお屋敷を出て、少し走ると山の麓に着いた。どうやら温泉はこの山の中にあるらしい。

幸村が持った松明の明かりしか無いし、そもそも山登りなんて自信ないぞと思っていたらお館様が片腕で軽々と私を持ち上げた。太く力強い腕は不安を感じないくらい安定感がある。何より俵担ぎじゃないって素晴らしい!

お館様のおかげで自力で歩くことなく山登り。しばらく登ると前方に明かりが見えてきた。そしてなぜかトンテンカンと大工仕事中みたいな音も。

辿り着いた温泉は石で縁を囲った露天風呂で、結構広い。既に佐助が居て、金づち片手にお風呂の真ん中に板で仕切りを作ってた。

佐助が一緒じゃなかった理由は分かったけど、こんなことまでやっちゃうなんて佐助ってどんだけ器用なんだ。だって幸村とお館様の殴り合い(合いを愛に変えたい)で破壊された部分の修理も手伝ってたりするんだもん。


「佐助よ、出来たか?」

「美夜ちゃんが着替えるとこ作りますからもうちょい待っててください」


一応オンナノコだからね、と言うのが聞こえた。ていうかきっとわざと聞こえるように言ったんだと思う。だってチラッとこっち見た時の顔がニヤニヤ笑いだったもん! コノヤロウ!

佐助は大きな布を広げるとその一辺の端を苦無を使って仕切り板に固定した。対角線上の布端は近くに木に結び、大きな布をもう一枚取り出すと先に布端を結んだのと同じ枝に二枚目の布端を結んで対角線上の布端を別の枝に結び、それぞれの布の下部を苦無を使って地面に固定した。板と布でJを作る形で着替えのスペースが作られた。だけど苦無をあんな使い方して良いんだろうかとちょっと気になった。


「これで良いですよ」

「ご苦労じゃったな。では美夜、ゆるりと漬かろうではないか」

「はい!」


お館様達と別れて私だけ布の内側に入る。Jの形で区切られているから何の隠しも無い部分があるけど、開いてる部分から見えるのは暗い山の木々だけ。それに幸村もお館様も佐助も居るから覗きされることはないだろう。三人が覗きをすることも絶対に無いと安心出来る。これが政宗だったら逆だけど。足元には布が敷いてあって足が汚れる心配も無さそうだ。

そういえば、ここに来てからみんな私を本名で呼ぶ。私の事情を知る人しか居ないからかな? いつまで経っても偽名は慣れないし落ち着かないから嬉しいけど。

いそいそと着物を脱いで多分佐助が用意してくれたんだろう籠に入れる。さすがに全裸になると寒い。手ぬぐいをお風呂の縁の岩に置いて早速浸かる。温度は少し高め。でも外気が冷たいからちょうどいい。


「ふぁ〜、気持ち良ぃー」


肩まで漬かるとため息が出た。普通のお湯のお風呂も良いけど、温泉はもっと良い。特に露天風呂は最高だ。しかも今日は晴れてて夜空が綺麗に見えるから文句無しに露天風呂日和! 雪が降ってる時に入るのも好きだけど。


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