この蒼い空の下で 参

□秋
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【18 〜 19 辺りの話】


小十郎さんが慌ただしく走って行くのが見えた。いつも冷静な印象があったから、そんな姿なんて見るのは初めて。何があったんだろ。政宗なら知ってるかな。


「政宗、ちょっといい?」

「美夜か。少し待ってろ」


執務室を覗いて声を掛けたら、政宗はチラッと私を見たけど一言言って直ぐに綱元さんと会話を続けた。お仕事の邪魔しちゃったのかな? 後にすれば良かったかも。

そうは思ってももう声を掛けちゃったから縁に座って政宗の仕事が終わるのを待つ。手持ち無沙汰でチラリと部屋の中を見る。微かに聞こえてくる会話は聞いたことのない単語が多くてさっぱり分からない。地名、だとは思うんだけど。

けど、仕事をしてる政宗は凛々しくてカッコイイ。いっつも意地悪ばっかりされるから余計にそう見えるのかも。

ふと政宗がこっちを見た。目が合ったと思った瞬間に逸らす。見惚れちゃってたのバレてないよね? なんでか火照ってきた頬を抑えていたら、綱元さんが終わりましたよと声を掛けてくれてから去って行った。政宗が来て隣に座る。

横目で見たら意地悪をする時の笑みを浮かべて私を見てた。これ絶対バレてる! ますます頬が熱くなって政宗の方を見ないようにしながらからかわれないうちにと話す。


「さ、さっき小十郎さんが慌てた様子でどっかに走ってくの見たんだけど何かあったの?」

「畑が荒らされたと世話を頼んでる村人から連絡が来たんだよ」

「荒らされたって、野菜泥棒が出たってこと?」

「NO. 足跡から犯人は猪らしい」

「猪・・」


元の世界でもこの時期になると熊の被害がテレビで流れるけど、たまに猪もそれに加わる。だから自然豊かなこの時代なら尚更なのかも。

小十郎さんは野菜を大事に育ててるから、荒らされたと聞いてあんなに慌ててたんだと納得。動物って美味しく育った野菜だけを食べてくって聞いたことあるし、幻とも言われてるらしい小十郎さんの野菜は動物にとっても最高の餌なんだろう。


「ねぇ、お仕事ってまだ残ってる?」

「いや、一段落してるが、なんでだ」

「小十郎さんのお手伝いに行きたいから連れてってほしいの。人手は一人でも多い方が良いでしょ?」

「Hnm. ま、良いぜ。連れてってやるよ。その変わり、」

「わっ!」


グッといきなり腰を抱き寄せられた。拳一つ分ほどの距離を開けてニヤニヤ笑ってる政宗の顔があって、せっかく冷めた頬の熱が全身に戻ってきちゃう。


「は、離して!」

「だったらさっき俺を見てた理由を言え。離すのも連れて行くのもそれを聞いてからだ」

「み、見てたから見てただけだもん!」

「答えになってねぇな」


政宗の視線が私から離れた。でも体勢はそのままで、さらに顎を掴まれ固定された。こめかみの辺りに政宗の吐息が当たる。


「正直に言わねぇなら・・・」

「ひぎゃっ!」


ふぅ、と微かに耳に息を吹き掛けられて腕にぷつぷつと鳥肌が立つ。


「い、言う! 言うから息吹き掛けないで!!」


負けるのはかなり悔しいけど弱点の耳には何もされたくなかったから、見惚れちゃってました! って正直に言った。なのに政宗は私の耳に唇を触れさせながら、


「次からはもっと堂々と見ても良いんだぜ?」


なーんて腰が抜けるような低い声で言ってきやがった! 約束守れ馬鹿! あとその声禁止!!


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