この蒼い空の下で 参

□夏
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全ての蝋燭に火が点けられた時にはもう外は大分暗くなってきて。障子戸をピッタリと閉め切った室内は空気が淀んでいるような気がする。ゆらゆらとゆれる灯火の影が壁や障子に写る。


「じゃあまずは俺から」


成実さんが側の蝋燭を一つ手に持った。明かりが下から顔を照らしていかにもな雰囲気を作る。ばれないようにそっと少しだけ体をずらして政宗の着物の袖を掴む。


「これは俺が贔屓にしてる刀屋の親父から聞いた話なんだけど・・・」


心持ち声量を低くして成実さんは話始める。ジジ、と灯心を燃やしながら蝋燭の火が燃える。

成実さんの語り口調は上手くて、政宗の着物の袖を掴んでいた手がいつの間にか腕を掴んでいた。

それに気付いても、何かに縋らなきゃ怖くて耐えられない。耳を塞げばと思うけど片手で両耳は塞げない。かといって政宗の腕を離す勇気も無い。


「・・・その刀は今でも血を求めてさ迷っているという話だよ。特に若い女の血が好物なんだって」

「っ!」


慌てて周りを見る。蝋燭が数本置いてあるだけ。でも三人で使うには広すぎる部屋は隅の方は蝋燭の明かりが届かない。暗がりに血を求めて持ち主が無くとも動き回る妖刀が隠れていてもこちらからはそれが見えない。

ふ、と明るさが僅かに落ちた。視線を前に戻せば成実さんが手に持っていた蝋燭の火が消えていた。


「け、消しちゃったの?」

「百物語は話終えるごとに蝋燭を一つ消してくもんだろ?」

「そうだけど・・・」


蝋燭一本分の明かり。たったそれだけでも今の状況では大きな価値がある。たった一本消えただけで部屋の隅の暗がりの濃さが増した気がする。


「次は梵の番だよ」

「そうだな、どれから話すか・・」


迷うほどレパートリーがあるの!? 驚きと絶望に見上げた政宗の顔が、思っていたより近い。いつの間にか政宗の腕に両手でしがみついていたらしい。

慌てて離れたら政宗が意地悪な笑みを浮かべながらひらひらと手を振った。


「掴んでなくていいのか?」

「う、うぅ」


掴んでいたい。でも政宗にからかわれたくない。けどまだ話は続くのに頼るものが何も無いなんて耐えられない。

うー・・・。怖いよりからかわれる方がずっとマシよ!

政宗の手を両手で掴んだ。見なくても政宗がニヤニヤ笑ってるのが分かるし成実さんも面白がってるのが分かる。だけど今はそんなのどうでもいい。

なんでもいいからとにかく一秒でも早く終わって!


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