この蒼い空の下で 弐

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「美夜」

「や、ヤだからね! 隣になんてしないからね!」


必死に俺の手を離そうと奮闘する美夜が面白くて可愛くて、悪戯したくなるが今はグッと堪えもう一度「美夜」と呼ぶ。今度は俺の声音が変わっていることに気付いたようで、視線を掴まれた手首から俺へと向けた。


「なぁ、美夜。お前、これからも俺の側に居たいって言ったのを覚えてるか?」

「え? ………あ」


直後にいろいろあって、その後にまともに話す機会が無いまま今に至っているからもしかしたら忘れちまってるかもしれないと思ったが、どうやら直ぐに思い出せたらしい。だがなぜか美夜は唇を引き結ぶと辛そうに顔を伏せた。


「美夜?」

「……無かったことに、して」

「What?」

「だって! ……だって、無理、だもん」

「俺の側に居ることが、か?」

「うん……」

「なぜそう思う」

「……私、お姫様じゃない、から」

「お前が俺の側に居たら、いつか俺の元へ嫁いでくる姫の邪魔になる。そう思ってんのか?」


顔を伏せたままで頷き答えた美夜に、思わず大きなため息をはきかける。途中からもしかしてと思っていたが本当にそうだった。

大抵の女なら汚い手を使ってでも得られる立場を逃すまいとするだろうに、美夜は絶対にしない。変なところで遠慮勝ちで、自分を主張し前へ出ようとしない部分が美夜にはあるが、今回はそれを出してほしくはなかった。

とはいえ、それも美夜の一部で、そして今回のは言葉を尽くして伝えれば済む話だ。


「美夜。俺は他の女は誰も、一人たりとも娶ることは無い」

「え……」

「俺が側にと望むのは、欲しいと思うのは美夜、お前だけだ」

「まさ、むね?」

「美夜、愛してる。偽りの許婚だった今までの立場はもう終わりだ。これからは真実、俺が唯一愛する女としてこの城に住め」


美夜にとって思いもしない告白だったのだろう。瞬きも忘れてぽかんと口を開けていたかと思うと何かを探すようにあちこちへと視線を向け、次にはじっと思案するように一点を注視し、だがそれでも混乱は治まらなかったらしく、出てきたのは「え?」という疑問の声だった。


「愛してる、と言ったんだ」

「あ、い…………え?」

「本当に鈍いやつだな。こういうことだ」


もう少し、混乱する美夜の様子を楽しみたい気もしたが、それよりも我慢しなくていい状態にしたい気持ちが勝った。ちっとばかし強引かもしれねぇ。そう思ったが手っ取り早いしなと思い直し、美夜の腰に腕を回し抱き寄せると視線を合わせたままキスをした。


「………あ、え?」


キスされてもなお、混乱は治まらなかったらしい。むしろ悪化してしまったのか顔を離すと美夜は忙しなく瞬きを繰り返した。

もう一度、もしくは意識するまで何度でもキスをするか。混乱が治まるまで待つか。瞬きだけを繰り返している美夜を見ながら思案していたら美夜の体がふらりと揺れ、そのままくたりと体を預けてきた。


「美夜?」


呼び掛けても反応は無く、覗き見れば眼は閉じられなぜか息が荒い。まさかとは思うが息も止めていた、のか?


「美夜」


もう一度呼び掛けながら軽く体を揺すってみたがやはり何の反応も無かった。


「はぁ……」


愛していると伝えてキスをしただけで酸欠で倒れられるなどいったい誰が予想出来るのか。美夜に俺の気持ちを理解させ、さらには美夜の中にある俺への気持ちも自覚させということが果てしなく難しい事柄に思えてきた。

柄じゃねぇし出来ればしたくはねぇが、前田に相談するしかないのかもしれない。

心なしか痛むこめかみをぐりぐりと揉みほぐすと意識を失った美夜を抱き上げ美夜の部屋へと運んだ。


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