この蒼い空の下で 弐

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廊下に出るなり襲う冷たい風に首を竦める。太陽は昇っても直ぐには暖かくならない。特に今日は少し風があるから余計に寒く感じる。

普段美夜が起きるにはまだ早い時刻だが、今日くらいは早く起きているかもしれないと、美夜の部屋へと足を向ける。床板もキンと冷え、足袋越しにもそれを感じると自然と歩く速度も早くなっていく。美夜が起きていたら抱き締めて温もりを感じようなどと考えていると、耳が音を捉えた。ペタパタと裸足で駆けているような足音に足を止め前方を見る。

思った通り、さほど経たないうちに曲がり角から美夜が姿を現した。裸足に夜着一枚という格好にも関わらず、寒さが気にならないほどに興奮しているのが表情から伝わってくる。向こうも俺に気付くとパッと笑みを浮かべ走る速度を上げた。軽く腕を広げて待てば体当たりする勢いで抱き着き、「政宗、政宗」と抑えきれない喜びに溢れた声で何度も名を呼んできた。


「残ってたんだな」

「うん…っ」


抱き返しながら聞けば美夜は涙を堪えていると分かる声で頷き、少し体を離すと見て、と首を傾けた。夜明けの光に白い首筋が晒される。そこには確かに、昨夜俺が付けた跡が同じ場所に同じ数、残っていた。そっと指先で触れると指の冷たさにビクッと体を揺らすも何も言わずじっとしている。


「確かに、残ってるな」

「でしょ! ちゃんと残ってたの! 消えたり、しなかった……っ」


次第に声を震わせた美夜は、再び俺の胸に顔を埋めた。程なくして聞こえてきた嗚咽に美夜を抱く手に力を込める。不安が強かった分だけ安堵と喜びも大きいのだろう。

脱いだ羽織を美夜の肩に掛けると抱き上げ、寒い廊下から部屋へと戻り美夜が落ち着くまで時折髪や背を撫でながらずっと抱き締めていた。

しばらくすると気持ちは落ち着いてきたようで泣き声は聞こえなくなり、変わりに目許を擦る仕草を見せた。あまり擦ると肌を痛めると、手を掴み変わりに親指で拭ってやると恥ずかしそうに頬を染め俯いた。いつもの調子が戻ってきたと感じるその様子にホッとする。


「なぁ美夜」

「なに?」

「この際だから隣に移動するか?」

「なにを?」

「お前の部屋を、俺の部屋の隣に、だ」

「へ? …………えっ!?」


ガバッと体を起こした美夜はまじまじと俺を見、本気だと伝わると途端に頬を染めオロオロし始めた。


「と、隣ってだってそんな、えーと」

「隣にした方がいろいろと便利だろ」

「便利って何が!? っていうか今のままで良いよ! 荷物移動させるの大変だし!」

「やるのは侍女の仕事だ。お前は身一つで来ればいい」

「で、でもみんなに悪いし!」

「あいつらはむしろ喜ぶと思うぜ? 俺とお前の仲を思えばな」

「なかって何!?」


狼狽えながら背を逸らし逃げようとする美夜の手首を掴んで引き留めながら、そういやぁまだ言ってなかったんだったと思い出す。今が良いタイミングか。


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