この蒼い空の下で 弐

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手のひらの中で石が熱を帯び始めるのを感じた瞬間、場の空気が一変した。息をすることすらはばかられそうな程の清浄な空気。深い安心感を得ると同時に感じる異質さに肌が粟立つ。これが、神の力によって作り出された清浄な気に満ちた空間かと、乱れた気を落ち着かせる意味も含めて周囲に視線を向ける。

眼には見えないが、今俺と美夜の周囲だけが透明な壁のようなもので隔たれているはずだ。その内側の空気だけが神の力によって浄められ、そして壁で隔てることによって内側の様子を外の者から隠すことが出来るらしい。

小十郎に必要な物は何も無いと答えたのもこれがあったためだ。これから何が起ころうと、全てが終わるまで小十郎を含め壁の外の者の眼には眠る美夜の傍らに俺が座している姿しか映らない。無意識下に働きかけることで側に寄ろうという気も無くす効果もあるらしいが例えそれが無かったとしても小十郎が止めるだろう。

神の力とやらも便利な面もあると思うが利用したいとは思わない。欲しいものはそれがどんなものであれ自身の力で手に入れてこそ価値がある。今回のように魂を移し新たに体を作るなどという、人の身では到底叶わない事柄で無ければ正直な話、神やその力といった、言ってしまえば得体が知れないとも思えるものとは関わりたいとも思わない。

とはいえ彼女の声を聞き届け、美夜を救う道を示してくれたことには素直に感謝している。神が彼女の声を聞き届けることが無ければ俺は美夜と出逢えなかった。

そう考えると俺と美夜が出逢ったことはやはり運命ってものなんじゃねぇのかと思ってしまい、俺はいつからromanticになったんだと思わず笑ってしう。

そんなことを考えている間にも石はさらに熱を帯び、淡く優しい光を放ち始めていた。次第に光は強くなっていく。


「そろそろ、だな」


室内の様子が確認出来る程にまで光が強まるのを待ち、眼を閉じゆっくりと深呼吸をして気を整え、そして互いの指を絡ませながら美夜の手をしっかりと握り締める。


ちゃんと導いてやるから、絶対に迷うんじゃねぇぞ。


「美夜」


こっちだと、呼び掛けるようにそっと名を呼ぶ。束の間、戸惑うように、怯えるように光が揺らめく。怖がらなくても良い、大丈夫だと言葉にする変わりにもう一度名を呼ぶと、光は揺らめくのを止め蛍が飛び立つようにふわりと石から離れた。そのままゆっくり、ゆっくり、美夜の体、その胸元へと向かっていく。

やがて体に到達した光は、吸い込まれるようにして体の中へと入っていき、今度はその体全体が淡く優しい光に包まれた。仮初めだった体が作り替えられていくのを感覚で知る。的確に言い表せる表現が思い浮かばないその感覚が薄らいでいくのと同時に新たに感じた感覚に、恐れに似た感情と途方もない安心感とが襲った。


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