この蒼い空の下で 弐

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「っ!」


眼を閉じるなり口を塞がれた。びっくりして思わず眼を開けてしまったけれど、それを見越していたのか手のひらで眼を覆われた。覆われる直前に見えたのが有り得ないくらい近くあった政宗だった気がして動揺している間にも熱く濡れた塊が驚いた拍子に開いた唇の隙間から口腔へと入ってきてびくりと体が固まった。


「んっ、んぅっ」


口腔へと入ってきた塊に舌を絡め取られた。何が入ってきたのかも分からないのに、不思議と嫌な感じがしない。それでも何なのか分からないこともあって逃げようとするけれど、そんな私の舌の動きを楽しむように塊は動く。体も強く抱き締められていて身動ぎすら難しい。


「ん……ん……」


塊の熱が移ったのか、だんだんと体が熱を帯び始めた。熱は思考へも影響を及ぼして、考える力が溶けていく。時折どこか近い場所で水音が聞こえるけれど、何が発しているのか気にする余裕も無い。

眼を覆っていた手が外されたことも、政宗の衣を掴んでいた手から力が抜けて添えているだけになっているのにも気付かず、気付けば意識しなくとも政宗に言われた通りに眼を閉じて政宗に身を預けていた。


「はぁ、は……ん……」


時折口は解放されて、酸素を求めて束の間荒い呼吸を繰り返し、直ぐに口を塞がれ熱く濡れた塊が口腔を動き回る。何度もそれが繰り返されて、私の中に熱くて激しくて、だけど優しくて甘い何かが注ぎ込まれていく。たくさん、たくさん、溢れるほどに。

溢れてもまだ注がれることに戸惑って、尽きる様子の無いことに怖いのか何なのか体が震える。すがるように腕を伸ばして近くにあった逞しいものに抱き着いた。そのせいか、首が限界近くまで反らされて、ぼやけた意識にすら上るほどに首が痛くなってくる。そうして聞こえた近くでギッと木の軋む音。口が解放されて、ゆらりと政宗が顔を上げた。


「成実」

「し、仕方ねえだろ! 昨日まで何の変化も無かったのにいきなりそんな密着して濃厚なのやってんの見たら俺だって動揺くらいするっての!」

「知るか! 美夜が大人しくしてんのがどれだけ貴重だと思ってやがる。この先あるかどうか分からねえってのに邪魔しやがって!」

「俺だって好き好んで邪魔してるわけじゃねえよ! 本当に偶々なんだよ! 悪気はこれっぽっちも無えんだよ! だから俺はそれを証明するためにしばらく旅に出る!」


言いながら成実さんはくるりと身を翻し脱兎の如く走り去っていった。


「美夜、お前は俺の部屋で待ってろ。どこかに逃げたり隠れたりするなよ」


私の様子に気付くことなく成実さんが走り去った方向を見ながらそう言った政宗は、誰もが脅え戦き真っ青になって慌てふためきながら道を譲らずにはいられないほどの怒りのオーラを放ちながら成実さんを追い掛けていった。

一人残されて、ぼんやりと政宗達が走り去って行った方を見て、しばらくしてからのろのろと立ち上がった。座った記憶は無いしなぜか足腰に力が入らないけれど壁にすがりながらも歩き出す。

向かう先は政宗の部屋、ではなくてどこか人気の無い物置部屋か空き部屋。出来れば人一人入れる大きさの空き箱や衣装櫃があってほしい。政宗の言う通りにする気は全く無い。

頭はまだ少しぼぅっとしていてうまく思考がまとまらない。だけど今はそれが有り難かった。たった今何があったのか、何をされたのか。何も考えたくなかった。考えてしまうのは、何をされたのか知ることは、精神衛生上だけでなく心臓にとってもかなり悪い気がする。そう直感がそう訴えている。

とにかく今は戻ってきた政宗に見つからない場所に隠れるのが先決。でも、気持ちとは裏腹に体の動きは鈍い。


「あつい……」


汗が出る程では無いけれど、体が熱くて少しだるい。きっと政宗のせいだ。そうに決まってる。だって、政宗が何かするまでは何とも無かった。

気付けばなぞるように唇を触っていた。そこはしっとりと濡れていて、それに気付いたら顔を中心に体がさらに熱くなって鼓動までもが乱れ始めた。どくどくと激しく脈打って、そのせいで熱までがどんどん上がっていく。


「ぅあ……」


思い出すな考えるな意識するなと強く頭を振ったら目眩を起こしてふらりと体が傾いだ。壁に手を突いていたお陰で倒れることは無かったけれど立て直すことは出来ずにそのままずるずると壁伝いにしゃがみ込んだ。


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