この蒼い空の下で 弐

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寝転がってぼんやりと天井を見上げながら考えるのは昨夜政宗に言われたこと。私はこれから先どうするのか。元の世界に帰ることを望み続けるのか、それとも、帰ることを諦めるのか。そしてもう一つ。


「セクハラじゃなきゃ、なんなのよ」


そっと指先で首筋に触れる。いつものように朝起きた時には消えてしまっていたけれど、そこには政宗に付けられたキスマークがあった。私への苛めで付けただけだと思っていたのに、政宗は遊びや酔狂で付けたわけじゃ無いと言ってきた。セクハラや苛め以外の理由があったなんて思ったことすら無かったからどんな理由で付けたのかさっぱり分からない。

首筋から手を離してため息をはく。キスマークの件は後で考えよう。考えてもセクハラや苛め以外の理由なんて浮かばないし、先に考えなきゃいけないことがある。これから先私はどうするのか。すっごい気になるけどキスマークの事はこれから先のことを決めてから考えよう。


「帰るのか、諦めるのか……」


あれ、と思わず起き上がる。声に出して言ってみたら何か感じるものがあった。起き上がった時に眼に入った、いつからか覚えていないほど長いこと意識に上らせることすら無かったもの、この世界に来た時に身に付けていたものを入れた箱の側へと躙り寄った。蓋を開けようとして、そういえば鍵を掛けていたんだったと思い出す。

だけど鍵の在処は直ぐには思い出せなかった。前は事情を知る人が少なかったこともあって念のためにもと鍵を掛け、その鍵は小袋に入れて懐に入れたりして私しか開けられないよう常に身に付けていた。いつからそれを止めてしまったんだろう。どうして止めたんだろう。

鍵を探しながら考えるけれど思い出せないし分からない。少なくとも甲斐に飛ばされる時にはもう身に付けてはいなかった。


「失礼致します。美夜様、お茶をお持ち致しました」

「ありがとう」

「何かお探しでいらっしゃいますか?」


背伸びをして棚の上を覗いたりしていたから当然聞かれるよなと思いつつ、駄目元で箱の鍵を知らないか聞いてみたらあっさり答えが帰ってきた。


「それでしたらおそらくこちらの鍵では無いかと」


そう言って楓さんは髪紐やかんざしをしまっている箱の引き出しの一つを開けた。引き出しの中は細長く区切られていて、左端のスペースに鍵が収まっていた。聞けばいつ頃からか入っていて、大切なものかもしれないから勝手に別の場所に仕舞って分からなくなってははいけないと思いそのままここに仕舞っていたらしい。

そういえば、髪紐だけはよく使うから紐を仕舞うついでにとここへ仕舞ったんだった。引き出しの中とはいえ髪飾り入れの箱は私だけでなく侍女さん達も開ける。私が着飾る時くらいしか開けないからと言っても仕舞う場所が無造作な気がする。大切なものだったはずなのに。


「では私はこれで失礼致します。何かご用がございましたらお呼びください」

「ありがとう」


楓さんを見送って、鍵穴に鍵を差し込んだ。カチリ、と鍵の外れる音がした。


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