この蒼い空の下で 弐

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「世話になり申した」


礼儀正しくきっちりと頭を下げた幸村に対し、政宗は相変わらず堅苦しいなと苦笑混じりに返事をした。

吐く息も白い、まだ太陽が半分ほど顔を出したばかりというほど早い時間だけど、冬は昼の時間が短いこともあって幸村達は早い時間の出発を決めていた。いつもなら私はまだぐっすり寝てる時間だけど見送りたかったから楓さんに起こしてくれるようお願いしておいた。

見送りに来ていたのは私と政宗と成実さんの他に慶次と夢吉も来ている。綱元さんは昨夜から所要で出掛けているらしく、小十郎さんは畑に行っている。幸村達のお土産用に育てた野菜を収穫するためで、昨日のうちにしておかなかったのは基本的に野菜は収穫したばかりが美味しいから。ほんと小十郎さんって野菜ラブな人だ。野菜と結婚するとか言い出した・・・さすがにそれは無いか。・・・・・無い、よね?


「幸村、気をつけてね」

「う、うむ」


眼が合った瞬間、幸村の瞳が揺れた気がした。だけど確かめる前に「俺には言ってくれないのー?」なんて言いながら佐助が幸村との間に割り込んできて意識が逸らされた。佐助も一応気をつけてと適当に返して幸村へと視線を戻した時にはもういつもの幸村に戻っていた。


「美夜も元気で。これから寒くなる故体には気をつけてくれ」

「うん。ありがとう」


幸村もねと言おうとして、常に剥き出しのお腹に眼がいって幸村なら極寒の中で水を被ってびしょ濡れで居ても風邪を引かなさそうだなーと思ってしまったら続きの言葉を飲み込んでしまった。

ごめん幸村。別に何とかは風邪引かないとか子供は風の子とか思ったわけじゃないの。体を鍛えてるから引かないだけって分かってるから。幸村の背中に向かってこっそりと心の中で謝った。

成実さんや慶次とも短い挨拶を交わした幸村は馬に跨がるために鞍に手を掛けた。だけどその体勢のままじっと一点を見詰めたまま動かなくなった。少しすると眼を閉じて何か考え込む仕種を見せ、そこからさらに少し経ってから眼を開け鞍から手を離し手綱を佐助に預けると政宗の正面に立った。

政宗を見る眼は真剣で力強い。そんな視線を向けられた政宗は面白がる中にも好戦的な眼を幸村に向けた。なんて言うか、眼を見ただけで幸村が今から何を言うのか察した感じ。


「政宗殿。此度は某の敗けでござる。だが、全てに敗けたとは思っておらぬ。故に次は純粋なる力の勝負をお願いしたい」

「Ha! 望むところだ。その変わり、それまで誰にも敗けんじゃねぇぞ」

「無論!」


力強い笑みを浮かべてぐっと顎を引いて頷いた幸村に、政宗はクッと片側の口角を上げて楽しそうに、そして挑戦的に笑った。二人共が相手を敵と見なしているのが分かって、だけどそれは決して険悪なものじゃない。睨みあう眼も嫌な感じは全く無くて、見ているこっちまで気持ちが高揚してしまいそうなほどに熱くて激しい。政宗にもこんなに熱い部分があったなんて知らなかった。二人の関係はたった今から良い意味での敵になったんだと感じる。もしかしたらこういうのをライバルって言うのかも。


「幸村」

「なんだ?」


今度こそ馬に跨がろうとした幸村を呼び止め、私に向き直った幸村と隣の政宗とを見て、自然と浮かんできた笑みを浮かべたまま幸村にお願いした。


「あのね、お館様に伝言をお願いしたいの」

「お館様に? もちろん構わぬ。して、なんとお伝えすればよいのだ?」

「政宗と幸村はお館様が望んでた形になったみたいです、って」

「An? なんだそりゃ。あのおっさんは俺と真田に何を望んでたんだよ」

「俺も知りたい。お館様は美夜に何をお話になられたのだ?」

「んー・・・秘密」


教えても二人は嫌な顔をしないだろうし、もしかしたらお互いに相手はライバルだと認めるかもしれない。だけど何となく秘密にしたくてそう言うと、二人揃って相手を見て、幸村は首を傾げ政宗は肩を竦めた。それを見て抑えきれずに少し笑ってしまった。


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