この蒼い空の下で 弐

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「な、なんの音?」


ドカンッ、ドォンッ、と間を開けながらも聞こえてくる轟音にビクビクしながら障子を薄く開けて外を窺う。見渡せる範囲内に異常は見られないけれど、城内の空気が張りつめているように感じる。心なしか少し息が苦しい。


「美夜様、申し訳ありませんが今は外にお出にならないでくださいませ」


喉を押さえながら部屋から出ようとしたら去り際に言っていたように側に居てくれたらしい楓さんに止められた。確かに何があるかも分からないのにむやみやたらと外に出るのは危険だと思ったから素直に中に戻った。


「ねぇ、あの音はなに? 何が起きてるの?」

「政宗様と真田様が仕合をなさっておられるのです」

「え・・・政宗と、幸村が? なんでっ!?」


政宗と二人きりになる直前の、佐助と政宗のやり取りを思い出し身を乗り出して聞くと楓さんはご安心くださいと私を宥めてから説明してくれた。


「真田様が明日お帰りになられることはお聞きしておりますよね? 真田様はその前に是非政宗様と一手手合わせをしたいと政宗様に請われたのです」

「幸村から政宗にお願いしたの? それって、その・・・お願いしたのは政宗と佐助が言い合う、前?」

「はい」

「そう、なんだ。良かった・・」


たまに疑いたくなる時があるけど佐助は幸村の配下だ。佐助のことで政宗が幸村に怒りのままに仕掛けたのかと思ってしまった。よく考えれば政宗はそこまで短気じゃ無いと思うし私と話してる途中で怒りは消えたみたいだったから違うと分かることだったけど。

音の正体と仕合が行われることになった経緯が分かってホッとするけど、それで謎が全て解消されたわけじゃないと思い出した。


「ねぇ。その・・・どうして私はここに寝かされてたの?」

「美夜様のお部屋はこちらよりも鍛練場に近うございましたので、念のためにと政宗様がこちらにお運びしたのです」


お姫様抱っこで運ばれたのかなと余計なことを考えそうになって慌てて頭を振って浮かびそうになった構図を追い払った。今はきっと些細なことでも眼を回してしまう気がする。


「念のためって、そんなに激しい・・っ! みたいだね」


聞こえてた爆音に思わず首を竦めて天井を見上げ、途中で言葉を変えて聞くと楓さんはお二人とも婆裟羅者ですからと私の知らない事を言った。


「婆裟羅者ってなに?」

「属性と呼ばれる六種の力のうちの一つを自在に操ることの出来る者のことを総称して『婆裟羅者』と言うのです。そうした方々はそうではない者より身体能力が飛躍的に上がりますので、属性の力も合わさって婆裟羅者同士の戦いはとかく派手になるのです」

「そうなんだ」


聞けば政宗と幸村だけでなく小十郎さんや佐助、慶次にお館様、かすがも婆裟羅者なのだという。だから身体能力が飛躍的に上がる、というのには納得出来た。みんな力だったり速さだったりがすんごいんだもん。


「ねぇ、遠くからでも見に行っちゃ駄目かな?」


仕合と聞くと慶次と成実さんの仕合が浮かんで成実さんが頬を切られていたことを思い出して尻込みしてしまうし、こんな爆薬を使っているんじゃないのと思ってしまうほど派手な音をさせてしまう仕合に対して怖いとも思ってしまう。だけど今はそれらと同じくらい『属性』というものに対する興味もあった。

楓さんはしばらく思案した後少々お待ちくださいと言って一旦下がり、小十郎さんを連れて戻ってきた。


「話は楓から聞いた。見に行くのは構わんが、俺や楓の側を決して離れないと約束しろ」

「楓さん?」

「恐れながら私にも武道の心得があるのです」

「そうなんだ。分かりました。絶対に二人の側から離れません」


私のことばに小十郎さんは一つ頷いて表情を僅かに緩め、支度が出来たら外に来いと言って先に部屋を出て行った。支度ってなんだろうと思っていたら楓さんが懐から手のひらに収まるサイズの漆塗りの丸いケースを取り出し、蓋を開けると中に入っていた白いクリームを手に取り失礼致しますと言ってからクリームを私の額に塗っていった。

薬を用意されるほど真っ赤になってるんだと分かって気恥ずかしくなった。包帯を巻かれるのは大袈裟に見えて遠慮したかったし、誰かに額が赤い理由を聞かれたらそれがきっかけでいろいろと思い出してしまいそうだったから楓さんにお願いして顔を隠せるものを用意してもらってから部屋を出た。


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