この蒼い空の下で 弐
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「ん・・・」
ごろりと寝返りを打つ。途端に背中が寒くなって体を丸めながら布団を引き寄せようとしたけれど、掛けられているものが布団にしては形が変だし綿の詰まり具合も薄い。一体何なんだろうと起き上がりながらそれを拡げたら綿入りの衣だった。冷え込むようになってきた頃から侍女さんが用意してくれたものだ。これを着てるのと着てないのとじゃ大分暖かさに違いがあるから本当に有り難い。
昼寝をしていたのを見て侍女さんか誰かが掛けてくれたんだろうと思って、あれ? と思った。昼寝をした記憶が無い。確か今日は朝御飯の後政宗の部屋に行っ、て・・・。
「わぁーーっ!」
「美夜様!? 如何なされました!」
「ぉぅわぁっ!」
私の叫び声に血相を変えて駆け付けてきた楓さんを見て、二度目の叫び声を上げながら頭から衣を被って踞った。びっくりしたというのもあるけれど、今の私の顔を見られたく無かったというのが大きい。
「美夜、様?」
「だ、大丈夫! 大丈夫だからしばらく一人にして!」
「えぇ、と・・・あの、では近くにおりますので、御用がありましたらお呼びください」
衣を被っているから声を出さないと分からないことにも気付かずこくこくと頷く。少し経ってから衣の隙間からそっと障子を見て、そこに楓さんの姿は無く障子も閉まっているのを確認してようやくホッとした。
今の私の顔、絶対に変になってる。だって、だって、政宗にあんなこと、されて・・・。
「っ〜〜!」
うっかりまた思い出しちゃって、しかも唇や手に政宗の温もりや触れられた時の感触まで甦ってきてしまい、あまりの恥ずかしさにブンブンと勢いよく頭を振った。振りすぎてクラッとなって畳に突っ伏しても、畳にグリグリと額を擦り付けた。
擦り過ぎて額がヒリヒリ痛みだしたことでようやく気持ちがちょっと落ち着いた。倒れたまま膝を抱え込んでヒリヒリする額を膝に押し付けた。
もう考えるのは止めよう。これ以上思い出したら本当に頭と心臓がどうにかなってしまう。恥ずかしさで外にも出られなくなる。
「大丈夫、大丈夫。平常心、平常心」
ぶつぶつと呟き続けるうちに本当にもう大丈夫だと思えてきた。のそのそと起き上がって、もう大丈夫だからと楓さんを呼ぼうとしてまたもやあれ? と思った。
ここ、私の部屋じゃない。寝かされていたのは火鉢が置いてあるだけの殺風景な部屋。楓さんが居るからお城の一室なんだろうけど、なんで私の部屋じゃないんだろう。
キョロキョロと部屋中を見ていても分からないからとりあえず隣室とを隔てる襖を開けて、三度目の叫び声を上げそうになって慌てて襖を閉めた。
隣は政宗の部屋だった。私には骨董品にも見える輸入品の数々やたくさんの難しい書物が積み重ねて置いてあったから間違いない。ってことは今私が居るこの部屋は政宗が普段寝室として使っている部屋って、ことで・・・。
「っだぁ!」
バコッと襖が溝から外れそうになるほど襖に額をぶつけ、そのままずるずるとその場にくずおれた。目の前がぐるぐるしている。もう考えない思い出さないと決めたばかりなのに政宗に言われたりされたりした数々の恥ずかしいこと全てと政宗の温もりや感触を思い出してしまった。しかもさっきよりも鮮明に思い出してしまったからまるで今もされているかのような錯覚すらしてしまう。
真っ赤になるまで熱した鉄の塊を抱えているかのように全身が熱い。頭の中も熱くて沸騰寸前どころか既に沸騰している感じ。そのせいかぐるぐると回る眼は治まるどころがどんどん酷くなる。ああまた意識がどっかに行っちゃう、と遠退きかけた意識で思った時だった。ドカンッと派手な音が響き渡り、私の意識を覚醒させた。
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