この蒼い空の下で 弐

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「少し休憩にするか」

「ごめん」


項垂れた私の頭を政宗は優しく撫でてくれた。この世界のことを教えてほしいとお願いしたのが昨日で、翌日の今日から早速勉強が始まった。朝御飯を食べ終わって、ちょっと緊張しながら政宗の部屋に行くと地図が広げられていた。地図を挟んで政宗の向かいに座ると、まずは何処を誰が治めているかを教えると言われた。

政宗の教え方は上手くて、まずは私と関わりのある、もしくは関わりのある人が関係している場所から教えてくれた。元の世界で住んでいた美濃や、一時お世話になっていたお館様様が治める甲斐。かすがが仕える謙信様が治める越後。慶次の叔父さんが治める加賀。

おかげで地理が苦手な私でもすんなり覚えることが出来た。だけどそれは最初だけで、知らない人や初めて聞く地名ばかりになってくると段々覚えきれなくなってきてしまった。だから頭の中を整理するためにも休憩は嬉しいんだけどちゃんと覚えなきゃ、とも思う。


「降ってきたか」

「え?」


侍女さんを呼ぶために障子を開けた政宗の呟きに、私も立ち上がって政宗の横から外を覗いた。


「あ、雪」


チラチラと小雪が舞っていた。直ぐに止んでしまいそうな降り方だけど、今日はいつもより寒いと感じたのは間違いじゃなかったみたい。


「ここって降れば積もるよね?」

「豪雪って程じゃ無いが一応な。積もってほしいのか?」

「うん。スキー場とかテレビでくらいしか雪景色って見たこと無いの。だから一面の銀世界を見てみたいなぁって」

「なら、積もったら景色の良い所に連れてってやろうか?」

「良いの!? 行きたい!」

「声が出なくなるほどの絶景を見せてやるから楽しみにしてろ」


政宗が自信満々に笑うから、私の期待はどんどん膨らむ。雪が積もったら雪掻きとか大変なことは多いだろうけど、早く見てみたくて仕方ない。


「忘れないでね?」

「忘れるわけねぇだろ。お前との約束なんだからな」


するりと頬に触れられ、ドキッとなる。甘くなった政宗の視線に頬に熱が集まってきてしまう。


「さ、寒いからそろそろ閉めよ」


障子を閉め、政宗の手と視線から逃れるように火鉢の側に戻る。そう簡単には鼓動も熱も治まってくれないのに、ドSの政宗は私を虐めてきた。


「ちょっ! 何すんのよ!」

「寒いっつーから温めてやってるだけだ」

「そんなの火鉢で十分だから離れて!」


腰に回された腕を引き剥がそうとしながら体を前に持っていくけれど、政宗がそんな簡単に私を解放してくれるわけないし、前には火鉢があるから政宗から離れようとしても限界がある。


「そんなにこれが嫌か?」

「嫌に決まってるでしょ! ドキドキし過ぎて心臓に悪いんだもん!」

「そういうことなら仕方ねぇ」

「え、わっ!」


まさかあの政宗があっさりと私を解放してくれるのかと思ったけど違った。くるっと体を反転させられ、正面から抱き締められてしまったのだ。さっきよりも体が密着してるし政宗の腕と匂いに体が包まれちゃってるしで本当に心臓がどうにかなっちゃいそう。


「は、離してっ」

「お前が本気で嫌がったら離してやるよ」

「本気で、って、そんなの・・・」


嫌に決まってる。政宗の腕の中は落ち着きもするけど、本当にどうにかなっちゃいそうほど心臓が暴れるんだもん。

そう思うのに、私の体は抵抗に向けて動こうとしてくれない。意思と体がバラバラ。最近こんなことばっかり。なんでなの?


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