この蒼い空の下で 弐

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「え? 私と政宗の馴れ初め?」


城下から帰って来た後、慶次に気付いた兵士さん達が興味深げに集まってきたからわいわいと話しながら適当な場所に移動している最中に、どういう流れでそうなったのか慶次が聞いてきた。ちなみに政宗は居ない。帰るなり用があるからとどこかへ行ってしまった。


「うん。俺前にもここに来たことあるんだけど、その時の独眼竜には良い人が居るようには見えなかったんだよ。ってことは俺がまつねえちゃんと利に捕まって帰った後に美夜達は出会って恋に落ちたんだろ? しばらくは誰も娶らないって公言してた独眼竜の気を変えさせた美夜とどこでどんな風に出会ったのか興味があるんだ」

「そ、そうなんだ・・・」


期待の眼を向けられても困る。無意識に慶次から眼を逸らしてしまう。

慶次は見た感じ話をするのが好きそうだけど口が軽そうには見えない。だから本当のことを話しても大丈夫だとは思うけど周りにはたくさんの兵士さんが私や慶次、幸村、佐助を囲うように一緒に歩いてる。ここで話せば彼らにも聞こえてしまう。


「な、どんな風に出会ったんだい?」

「ひ、秘密」


いつだったか兵士さん達から聞かれた時と同じ答えを返した。でも慶次は納得してくれなかったみたいで、さらに聞いてこようとしたけど側に居たリーゼント頭の兵士さんに止められた。


「駄目っスよ、慶次さん。筆頭と姫さんの出会いは二人だけの思い出なんスから」

「二人の恋が始まった時の思い出は二人だけの宝物、ってことかい?」

「そうっス」

「良いねぇ。恋の花咲く甘い思い出、ってやつだね」

「おお! 慶次さんさすがっス!」


盛り上がり始めた慶次と兵士さんとは対照的に、なぜか私の心は重しでもあるかのように沈んでいく。心無しか胸の奥が痛いような苦しいような気さえする。

恋なんて・・・。政宗と私の間にそんなもの存在しない。元の世界に帰るまでの間、許婚のふりをしているだけ。ただ、それだけ――。

胸が苦しい。辛い。痛い。泣きそう。なんでこんなに苦しいんだろう。嘘をついているから? みんなを騙しているから? だとしたら知らなかった。嘘をついて騙し続けることがこんなに辛くて苦しいなんて。


「美夜、どうかしたのか?」

「え?」


心配そうに覗き込んできた幸村見て、その時になって無意識のうちに襟を握り締めていたことに気付いた。


「大丈夫。ちょっと、その・・・嘘つくのって辛いなって思ってただけだの」


幸村にだけ聞こえるよう小声で言うと、私の正体や秘密を知っているからか、幸村まで辛そうな表情になった。


「嘘をつくのは確かに悪いことだと思う。だが必要な嘘というものもある、と俺は思う。美夜の抱える嘘は必要な嘘だ。だから、その・・・げ、元気を出してほしい」

「幸村・・・ありがとう」


少しだけ、心が軽くなった気がした。自然と笑顔が浮かぶ。

普段から幸村は優しい人だけど、それでもこうやって気遣ってくれるのが嬉しくてお礼を言っただけなのに、幸村はなぜか真っ赤になって俯いた。

照れてる、のかな?


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