この蒼い空の下で 弐
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昨日かすががお土産に持ってきてくれたお菓子を侍女さん達と食べていた時、あることを思い出した。
政宗の側に戻って来たんだからカステラの作り方聞けるじゃん!
早速お願いしようと政宗を探したら、私を探していた幸村と会った。
「ちょうど良かった。今美夜の部屋へ訪ねるところだったのだ」
「私に何か用事?」
「うむ。昨日までの俺の態度を謝りたかったのだ。すまなかった」
「幸村、顔上げて。私は気にしてないから」
律儀で幸村らしいなと思いながら、頭を下げた幸村の肩に触れて顔を上げてくれるよう促した。
「何があったか知らないけど、もう大丈夫なの?」
「うむ。もう大丈夫だ。成実殿のおかげだ」
「し、成実さんの?」
幸村に変なこと教えたりしてないよね? ヘタレでスケベな幸村なんて私嫌だよ。
「美夜?」
「な、なんでも無い! 気にしないで」
幸村に変わったところが無いかとまじまじと見てしまった。とりあえず以前と変わり無いようだから大丈夫、かな?
「もう一つ用があるのだが、」
「なぁに?」
「もしこの後予定が空いているなら、以前言っていた団子屋に行きたいのだが、どうだろうか」
「もちろん良いよ。あ、でも政宗からはまだ返事もらってないの。政宗のとこ行くつもりだったからついでに誘ってみるね」
「分かった。では俺は先に門の前で待っている」
「寒くない?」
「大丈夫だ。これくらい何ともない」
からりと笑った幸村のお腹を見てしまった。幸村は素肌にジャケットっぽいものを着てるだけだから、吐く息が白くなるほどの寒さなのにお腹は剥き出しになってる。見てるこっちが寒い。
ふいに子供は風の子、という言葉が浮かんだ。ごめん、幸村。
じゃあ後でと一旦幸村と別れ、通り掛かった侍女さんに政宗の居場所を聞いた。政宗は今日は朝から部屋に篭ってるらしい。
「政宗?」
「美夜か?」
「入っていい?」
「ああ」
障子を開けたら政宗は片膝を立て窓辺に肘を突いて煙管を吸っていた。その姿がかっこよくてつい見惚れてしまい、ごまかしと頬の熱を散らすために軽く頭を振ってから中に入った。
「朝から部屋に篭ってるって聞いたけど、どうしたの?」
「鈍過ぎるやつへの対処法を考えてただけだ」
「それってもしかして私のこと?」
「よく分かったな」
「分かるわよ! 何度も鈍いって言われてるんだもん! 鈍くなんて無いのに!」
「自分のことを分かってないやつってのはどこにでもいるからな」
やれやれとわざとらしく頭を振ってため息を吐きやがった政宗を睨んだ。政宗が私に何かしてこようとする時はちゃんと嫌な予感として察知してるってのに。
「それより、ここに来たのは俺を心配してくれたからか?」
「それもあるけど元々は用があったの」
一瞬政宗が面白くなさそうな顔をした気がしたけど、どうせ私をからかおうとして出来なかったからだろうと無視して話を続けた。
「あのね、前に幸村とお団子食べに行くから案内して欲しいってお願いしたの覚えてる? これから行こうと思ってるから政宗さえ良かったら一緒に行ってほしいんだけど、どう?」
「構わねぇぜ。つーか行くに決まってるだろ」
「そうなの?」
政宗もお団子食べたかったのかな? あそこのお店のお団子すっごく美味しかったし。
「直ぐに出発すんのか?」
「うん」
「なら外套取ってこい」
「うん。あ、そうだ。もう一つお願いがあるの」
煙管を片付けていた手を止めた政宗が視線で促すのを見て、側まで行ってからお願いした。
「あのね、カステラの作り方を教えてほしいの」
「食べたくなったんなら言えば作ってやるぜ?」
「ありがと。でも今回は幸村に食べさせてあげるために作りたいの」
「真田に?」
「うん」
甲斐に居た時に幸村にお菓子の話をして、カステラなら食べられるかもと期待させちゃった後に作り方が分からなくてがっかりさせちゃったことを話した。
「だから幸村には内緒で作って喜ばせてあげたいの」
「Hnm」
「政宗?」
「出掛けんだろ? 教えるにしても戻ってからだ」
話しているうちになぜか不機嫌になった政宗は、さっさと先に部屋を出て行ってしまった。どうしたんだろ?
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