この蒼い空の下で 弐

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「寒いぃ〜」


お館様にもらった外套にしっかり包まっていても足元からの冷えた空気に体が震える。裸足なのも体を冷やす原因の一つだろう。火鉢が恋しい。温かいものが飲みたい。お鍋食べたい。ホッカイロ。


「っぷしっ」


くしゃみが出てしまうほど寒くても、物置部屋から出る気にはならない。こんな寒くて薄暗い所に隠れてる理由は毎度の如くに政宗が原因だ。ただし、セクハラから逃げるためじゃない。

昨日政宗への誕生日プレゼントとして何でも好きなことを言ってと言ってしまった。これがダメだった。

政宗が望んだのは膝枕。足は痺れるし手は握られるしで心臓に悪いったらなかった。せっかく政宗の寝顔を見られるチャンスだったのにと後で気付いたけど、その時はドキドキし過ぎて見てる余裕なんて全く無かった。

さらに問題なのは政宗が「好きな時に好きなだけ膝を貸せ」と言ったこと。

政宗への誕生日プレゼントとしてのものだから今更取り消しなんて出来なくて、考えた結果こうして逃げることにしたのだ。

部屋に私が居なければ政宗も諦める・・・・諦めてくれると良いけど。ドキドキし過ぎて心臓壊れるかと思ったもん。思い出すだけで頬が熱くなる。おかげで、って言うのも変だけど、ちょっとだけ寒さが和らいだ。


「ここにか?」

「おそらくは」


火照った頬に冷えた手を当てていたら木戸の向こうから声が聞こえてきた。二人分の声はどちらも女性のものだから政宗は居ないみたいだけど、それよりもこの声聞き覚えがあるような・・・。

木戸越しだと判別しにくい。もう少したくさん喋ってくれたら分かりそうんだけど。そう思っていたらまた話し声が聞こえてきた。


「確かに中に一人分の気配はあるが、ここは物置に見えるぞ? なんでこんな所に美夜が居るんだ。あの男は美夜をこんな所に追いやっているのか?」

「政宗様はそのような御方ではありません。美夜様は・・・隠れ鬼のようなことをなさっておられるだけです」


憤りも露わな声と、最初はキッパリと、後半は困惑気味な声。どちらも聞き覚えがあるけれど、ここには居ないはずの二人。一人は政宗ではない別の人に仕えていて、もう一人はここから去ってしまった人。


「隠れ鬼? まあいい。事情は美夜に聞く。入るぞ」


ガラッと木戸が開き、この世界の日本では珍しい金髪美人の姿が見えた。


「かすが!?」


声から想像した通りの人物に驚いて眼を開く。呆然と見つめていたら、私を見つけたかすがに駆け寄られるなり肩を掴まれた。


「大丈夫か、美夜? あの女は隠れ鬼をしているだけだと言っていたが、本当にあの男に虐げられてはいないんだな?」

「あの女? あの男?」


誰のこと? そう思って木戸に視線を向けたら、硬い表情で立つ楓さんが居た。


「楓、さん?」

「・・はい」


戻って来てくれたの? それとも遊びに来てくれたの? 怪我は大丈夫? どうしてかすがと一緒だったの?

聞きたいことは幾つもあるのに何から聞けば良いのかが分からない。口を開けては閉めてを繰り返す私と、硬い表情で視線も伏せ気味な楓さんを交互に見たかすがが私の二の腕を掴んで立ち上がった。半ば強制的に私も立ち上がる。


「美夜、お前の部屋はどこだ。ちゃんとあるのだろう? 続きはそこでだ。こんな所に居ては風邪を引くぞ」


私の腕を離し、変わりに手を掴んだかすがに引っ張られながら物置部屋を出る。楓さんはと振り返ると楓さんは木戸を閉めてから足速にかすがの前に出て案内のために先頭に立った。

着ているものは侍女のお仕着せではなく普段着らしい着物だけど、侍女として振る舞うその姿に懐かしさと嬉しさが込み上げて自然と笑顔になった。


「楓さん」

「はい」

「おかえり」


何も考えず心に浮かぶままにそう言っていた。直後に遊びに来てくれただけだったら不似合いな言葉だったと焦ったけど、言われた直後は驚いて、次に泣き笑いの顔をした楓さんの言葉に間違っていなかったと安堵して、同時に嬉しくなった。


「ただいま、戻りました」


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