この蒼い空の下で 弐

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無意識に何もされなかった頬に触れながら何事も無かったかのように室内に入ってきて火鉢の前に座る政宗を凝視した。

政宗が、ドSで意地悪で変態のあの政宗が直前でキスを止めた?


「そこ閉めてお前も座れ」

「あ、うん」


政宗から逃げる予定だったのにそれさえ忘れて言われるままに従った。


「あの・・・どうしたの?」

「何がだ」


セクハラしなかったじゃん。イジメなかったじゃん。

どちらもダメだ。まるで私がそれらをされるのを望んでいるように聞こえてしまう。考えても上手い聞き方は浮かばなくて結局別のことを聞いた。


「な、何しに来たのかなって思って」

「お前の顔を見に来た、ってだけじゃダメなのか?」

「ぅ、や、あの・・・」


微笑しながらジッと見つめられていたたまれなくなってもぞもぞと身動ぐ。せっかく引いた頬の熱と壊れそうなほどに高鳴る鼓動が戻ってくる。

ダメじゃないし別に用なんか何も無くても会いに来てくれて良いんだけど(う、嬉しい、し)そういうことをそんなからかう様子零の口調や表情で言わないでよ。政宗のバカッ。

どう返事したら良いのか分からなくてもぞもぞしてたら政宗がフッと笑った。


「Jokeだ。今はな」


今はってことは後で冗談じゃなく本気で何かするってこと?


「用は別にある。手ぇ出せ」


後で何をされるのかちょっと不安だったけど、もしもの時は小十郎さんを呼ぼうと決めて両手を出した。そしたら政宗は微かに笑って片手で良いと言って私の右手を取った。

昨夜政宗の手を拭いてあげた時のことを思い出してしまい、連鎖的に酔った後のことまで思い出して恥ずかし過ぎて今すぐこの場から逃げ出したくなった。

でも、強く握られてるわけじゃないのになぜか政宗の手を振りほどけなくて逃げられない。手の力とは別の、見えない何かに捕われたかのように体を動かすことも出来ない。

政宗なら私が赤くなって落ち着きなく視線をさ迷わせてることに気付いているだろうに、政宗はこれにも何も言わずに懐に手を入れた。

取り出したのは大事そうに布で包んだ何か。政宗がこんなに大事に扱ってるってことはよっぽど凄いものってことなのかな? 伝統工芸品とかそういうの? それとも外国から輸入されたもの?

興味を引かれて見ていたけど、政宗が膝に置いてから広げた包みの中身は銀のブレスレットだった。指二本分より少し小さいくらいの幅の輪っか状のもので、図案化された花が彫られてあって、さらには翡翠らしき緑色の丸い石が散りばめられていて可愛いとも綺麗とも思う。だけど『凄い何か』があるようには見えない。

それに大きさもデザインもどう見ても男性用じゃない。もしかして鑑賞用? 不思議に思っていたら政宗はそのブレスレットを取ったままだった私の右手首に着けた。


「Birthday Presentだ。大分遅くなっちまったがな」

「え・・・」


予想もしていなかったから突然過ぎて言葉が出てこない。政宗を見て、ブレスレットを見て、そうしてじわじわと嬉しさが込み上げてきた。

政宗がくれた誕生日プレゼント! あれ? でも私、誕生日は秋だってことしか教えてなかった気が・・・。


「私、誕生日が何日が言ってたっけ?」

「Diaryってやつに印してたろ」


確かに手帳を買うと真っ先に友達と自分の誕生日の日に印しを付けるけど・・・。記憶を辿って、私がこの世界に来たばかりの頃に政宗に手帳の中身を見られていたことを思い出した。


「ずっと覚えててくれたの?」

「・・まあな」


なぜか政宗は視線を逸らし、しかも頬が心なしか赤い。でも今は嬉しい気持ちでいっぱいで他のことまで気にする気分にはならない。


「政宗ありがとう」

「毎日ちゃんと着けろよ?」

「毎日?」

「Yes. お前は俺のものだって証でもあるからな」


政宗は不敵に笑いながらそう言って、私の右手の指に自分の左手の指を絡めてきた。

政宗は何度私の顔を熱くさせて心臓もドキドキさせたら気が済むの?


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