この蒼い空の下で

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ある日の夜。政宗が突然部屋に来た。明日の朝、出陣する、と。

奥州はまだ一枚岩というわけではないらしい。ほとんどは政宗に臣従を誓っているけれど、まだそうではない人達も少数だけどいるのだという。

天下取りに向かう前に、地盤を固めるためにもまずこの人達をどうにかする必要があり、そろそろこちらから仕掛けるかと思っていた矢先にあちら側が怪しい動きを見せ始めたらしい。

夕方に緊急に開かれた軍議で向こうの準備が整う前にこちらから攻めることが決まったのだという。お城の中の空気がいつもと違ってどこか張り詰めているような気がしていたから、もしかして、とは思っていた。でも実際に戦だと言われると思っていた以上に動揺してしまった。


「前にも言った通り、城には綱元が残る。何かあれば綱元を頼れ」

「うん・・・」

「安心しろ。俺が負けるなんざ有り得ねぇからな」


力強く不敵に笑う政宗に笑い返そうとしたけど失敗した。戦が本当に始まってしまうのだと思ったら不安で胸が押し潰されそうになる。政宗が大きな手でぽんぽんと優しく頭を叩いてくれたけど、いつもみたいには安心出来なかった。


「政宗、」


言おうとした言葉の場違いさに気付いて口ごもる。どうしたのかと聞いてくる政宗になんでもないとごまかした。

訝りながらも明日の準備があるからと部屋を出る政宗を見送った。一人になると城内がざわついているのをはっきりと感じて余計に不安になってしまった。

パタリと畳に倒れ込んで両腕で目許を覆う。情けなさにため息が零れた。


「怪我しないでね、なんて、なに言おうとしてんのよ」


戦いに行くのだから無傷でいられるはずないのに。政宗は隊の後方、安全な場所から指示だけ下すタイプじゃないだろう。きっと誰よりも先に突撃していく気がする。

起き上がって首にぶら下げている小さな巾着袋を服の下から取り出す。中にはヒビがこれ以上出来ないように柔らかい布でしっかりと包んだお守り石が入ってる。

この石には神仏の加護が宿っているらしいと政宗は言っていた。もし、本当に加護があるのなら・・・。


「どうか皆が、政宗が無事に帰ってきてくれますように」


神頼みなんて政宗はきっと好きじゃないだろうから、石を渡すことはしない。だからこっそり祈るだけ。それくらいしか、私にも出来ることが浮かばなかった――。


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