この蒼い空の下で

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兵士さん達はずっと土下座姿勢。私はフリーズ。しばらくそれが続いて、じわじわと頭が動きを取り戻す。今はとにかく彼等に土下座を止めてもらうことが先決だ。


「あの、頭上げて下さい。そんなことしてもらうようなこと何も無かったんですし」

「でも、俺ら姫さんの前でこんな見苦しい格好を……。はっ! おい、みんな早く服を着ろ!」


全員が弾かれたように顔を上げて脱いでいた袖に腕を通して身なりを整えた。そしてまた一斉に「すいやせんしたぁっ!!」と土下座。だからその土下座を止めてって言ってるのに!

どうしたらいいのか分からなくてオロオロしていたらあのリーゼントさんが頭を上げた。だけどなぜか悲壮な覚悟を決めた顔をしてる。


「姫さん、どうか俺の命(たま)一つで許してくだせぇ」

「は? え? えぇえぇぇっ!?」


リーゼントヘアーの兵士さんの覚悟に他の人達は腕を目元に押し当てて男泣きをし始めた。そんなみんなに向かって「お前らと過ごした日々は忘れねえぜ!」と泣くのを堪えながら叫んだリーゼントさんは鞘から抜いた刀の刀身を手の平が切れるのも構わず握ってお腹に突き刺そうとした。


「だめぇぇっ!」

「うわぁっ!」


頭で考えるより先に体から動いてタックルする勢いで飛び付いて止めた。


「や、止めないと脱ぐから!」


パニックが最高潮にまで達した私から飛び出した一言の恥ずかしさに穴の中に入りたくなった。いくら暑すぎて脱ぎたいって思ってたり脱いで水浴びしてる兵士さん達が羨ましかったからって……。これじゃあまるで露出狂みたいじゃない!

でも、恥ずかしい思いをした甲斐もあってみんな落ち着いてくれた。私は彼等の格好を何とも思っていないことも分かってくれて、私が見ていたのは水浴びが羨ましかっただけだと伝えることも出来た。


「すいやせん。俺ら早とちりしちまったんすね」

「気にしないで。それより手の平痛いでしょ? 早く手当しないと」

「だ、大丈夫っす! こんなの唾つけときゃ治るっす!」


言ってペッペッと手に唾をかけるリーゼントさん。だけど染みたらしくギャー! と騒いだ。この人、いろんな意味で大丈夫なんだろうか。心配だ。

見兼ねた他の兵士さんに治療のためにどこかに連れて行かれるリーゼントさんを見送りながらそう思った。


「あのー、姫さん。良かったら水汲んできやしょうか?」

「いいの? ありがとう」

「い、いえ!」

「てめっ! 抜け駆けなんて狡ぃぞ!」

「馬ー鹿! 早い者勝ちなんだよ!」

「だったら俺が汲む!」

「てめっ、待ちやがれ!」


そんなに水汲みが好きなのかな? 変わった人達。まさか私のために汲みたいなんてことは……無いよね。私美少女でもアイドルになれるようなタイプでも無いもん。……自分で言ってちょっと落ち込んだ。


「姫さん。汲んできたっす」

「あ、ありがとう。でも、その……大丈夫?」

「これぐらい屁でもねぇっす!」

「そ、そう……」


どこからか調達してきた桶に水を入れて私の元まで持って来てくれた兵士さんは、元の髪型が分からないほどぼっさぼさだし顔や腕には引っ掻かれたり殴られたりした跡がたくさん。喧嘩してまで水汲みたいなんて変わり者過ぎだよ。

ちょっとだけ引いちゃいながらも桶を受け取ろうとしたら部屋まで運びますと言ってくれた。でも水汲みの時みたいにまた喧嘩になりそうだったらその場に置いてもらって足を浸した。


「んー気持ち良……」


やっぱり井戸の水は冷たくて気持ち良い、と思って顔を上げたら兵士さん全員が私を見ていてびくっとなった。なんでみんな揃って私を見てるわけ? そんなに注目されてると落ち着かないんだけど!


「あの、」

「へい! なんでも言ってくだせぇ!」

「な、なんでもない! なんでもないから!」


だめだ。下手に何か言ったらまた喧嘩が起こりそう。……なんか、この人達って水汲みが好きなんじゃなくて私に何かしてあげるのが好きって感じに思えてきた。だとしても理由なんて思い浮かばないし、どう考えても私は美少女でもアイドルでも無いから、気のせい、だよね。


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