この蒼い空の下で

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「ま、まずは落ち着こう、美夜ちゃん! あれはほら、あれだよ! 俺なりのちょっとしたお茶目ってやつで美夜ちゃんを見捨てたわけじゃないんだよ!」

「へぇ〜、今まで以上にヤバい感じに政宗に襲われてる私を見て笑顔で親指立てて去ってくのがお茶目なんだー。私の貞操の危機だったのに成実さんはそぉんな軽い気持ちだったんだー」


にこにこ笑いながらお盆をさらに高く振り上げる。


「ご、ごめん! 謝るから角で殴るのはやめ…」

「今更遅いわぁーっ!」


高く振り上げた丸いお盆の角が、ゴッ! と聞いただけで痛くなるような音を立てて成実さんの脳天に減り込んだ。でもそれだけじゃ怒りが収まらなかったから同じ場所を平たい面で何度かベシベシと叩いてやった。頭を押さえて痛みに悶えて騒ぎながら転がる成実さんを見ているうちにやっと怒りが鎮まる。


「今度またあんなことしやがったら次は脛に同じことやるから」

「やらない! 絶対にやらない!」

「絶対?」

「絶対絶対!」


よし、今日はこれくらいにしておいてあげよう。成実さんへの制裁が終わってふと周りを見たら、面白そうに成実さんを見る政宗の他に呆れた視線を成実さんに向ける小十郎さんが居た。


「もしかしてなんか話中だった? 邪魔しちゃった、よね?」

「いや、もう終わったところだ」

「そうなんだ。ならよかった。じゃあ私お盆返してくるから」

「ンなもん成実にやらせてお前はこっちに来い」


手招きされても警戒。小十郎さんも居るから大丈夫かもしれないけど。念のために政宗からは十分に距離を取って開け放されたままの障子の近くに座る。お盆は成実さんに渡した。


「なに?」

「お前に合わせたい奴がいる。夜になったらここに来い」


政宗がわざわざ私に会わせるんだからなんか意味があるのよね? どんな人なのかな。ちょっとだけ楽しみだけど、政宗みたいに意地悪でドSだったり成実さんみたいに薄情じゃない人だといいなぁ。なんて政宗が聞いたら怒ってセクハラまがいの仕返しをしてきそうなことを思いながら分かったと頷いた。

城内の探索をして迷子になって、そんな時に限って政宗に見つかって笑われたりからかわれて遊ばれる内に陽が落ちた。夕飯もお風呂も済んで暇潰しに侍女さん達から碁を教えてもらっていたら政宗付きの侍女さんが私を呼びに来てくれた。お礼を言って政宗の部屋に向かうと開け放した障子戸の縁に凭れながら片膝を立てて座る政宗の横に、知らない男の人が居た。あの人が私に合わせたい人かな?

顔を上げたその人と目が合って、軽く頭を下げて挨拶されたから私も頭を下げた。それから政宗に促されてその人とは反対側の政宗の隣に座る。これだけ人が居れば政宗もそうそう何かしてきたりしないよね?


「美夜、こいつが昼間言ってた奴だ」

「鬼庭綱元と言います」

「あ、美夜です」


もう一度お互いに頭を下げた。綱元さんは見た目の歳は小十郎さんの見た目年齢と同じくらい。見た目と実年齢が同じなのかちょっと気になる。だって政宗も小十郎さんも成実さんも老け顔だもん。言ったら絶対に怒られるし特に政宗には何されるか分からないから言わないけど。

綱元さんは政宗達ほど美形では無いけれど落ち着いた佇まいが大人の男の魅力を醸し出している。一重で切れ長の眼が一見すると冷酷な印象を与えそうだけど、ほんのり浮かべた微笑が優しい印象に変えてくれている。


「綱元にもお前のことは話してある。俺も小十郎も居ねえ時に何かあれば綱元を頼れ」

「二人とも居ない時なんてあるの?」

「戦が始まれば城を空けることになる」

「あ……そ、か」


政宗の言い方が二人共が長期間お城を留守にするみたいに聞こえて、不思議に思って聞いてみただけだったのに返ってきた答えに不安になった。毎日があまりにも騒がしくて平和で、ここが戦国の世なんだってことをついつい忘れてしまう。だからかな。こうしてふとした時に思い出すことになると余計に不安になる。


「わ」


俯いていたら頭に手を置かれた。見上げた政宗は彼らしい不敵な笑みを浮かべてて、不安でざわついてた心が不思議と落ち着いた。政宗の側なら大丈夫。根拠なんか何も無いのにそう思った。


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