この蒼い空の下で

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「あー、暇ー」


ただ隠れてるのってものすっごい暇。携帯持ってくればよかったかも。暇過ぎる。暇潰しになるようなものでもないかなーと見回しても積み上がった木箱やら行李やらがたくさんあるだけだし勝手に中覗くのは気が引ける。というかしちゃ駄目だと思う。小十郎さんが帰ってくるまであとどれくらいなんだろ。って携帯無いから時間わかんな……あ、携帯壊れてたわ。 

携帯を返してもらってからしばらくして気づいたんだけど、携帯は壊れていた。なぜなら時計が全っ然進まないから。圏外表示になるのは当たり前だけど時計が止まるってことは故障のはず。電源切ってみたり設定し直してみたりしても直らなかったし。

でもあの携帯変なんだよね。時計とメールとかWebとか通信系の機能以外は使えたんだけどどれだけ使っても全然充電が減らないんだもん。どうなってんだろ。積み上げられた箱に凭れて考えていたら足音と微かな話し声。慌てて更に奥に隠れて体を小さくする。心臓がドキドキいってる。政宗じゃありませんように!

襖が開く音がして誰かが入ってきた。でも二人分の声はどちらも女性のもの。政宗じゃなかった。ホッとしつつも見つかってここに居る理由とか聞かれたら困るからそのまま静かにしていると二人は探し物が見つかったのか出ていった。


「ふぅ」


知らず詰めていた息を吐いた。なんか警察から逃げる犯罪者の気分だよ。その後も部屋の前を何人もの人が通っていく足音がしたけど中にまで入ってくる人は居なかった。

そろそろお昼かな? 小十郎さん帰ってきてるかな? 耳を澄ませて足音がしないことを確認。……よし、大丈夫だ。

出ていって小十郎さんが居るか確認して、まだだったらまたここに戻って隠れよう。そう思って箱から背中を離して立ち上がろうとした瞬間だった。足音も襖が開く音もしなかったのにいきなり誰かに強い力で肩を引き倒され、背中と頭を床で打ち、声を上げる間もなく首を掴まれ圧迫された。痛みと苦しさに目の前が霞む。


「っ、ぁ」

「あれ? 君って確か……美夜ちゃん、だっけ?」


聞き覚えの無い男の人の声。私だと認識したからか、直ぐに首から手を離してくれてやっと息が出来た。その人は身をよじって咳込む私の背中を撫でながら謝ってきた。


「ごめんねー。まさか美夜ちゃんだとは思わなかったからさぁ」


じゃあいったい誰と思ったのよ。あんなに強く首を押さ付けるなんて普通じゃないよ!

そこまで思って、ああここは戦国時代だったと思い出した。多分、この人は私を侵入者と間違えたんだ。お城の中で、しかも人目を忍んでこんな場所に隠れてるなんていかにも怪しいだろうし、不審者を捕らえて尋問、とか時代劇でも定番のシーンだ。

だからさっきのこの人の行動はこの人の中では普通の行動だったんだろう。もう少し力を込められていたら窒息していたか首の骨を折られていたかもしれない。そんなことを躊躇いなく行ってしえるのが普通の、この世界。首に残る痛みが恐怖を倍増させた。

早く、帰りたい。

涙が出そうになった。


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