この蒼い空の下で

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「…………ちょーりあるー……」

眼が覚めてからの第一声はこれだった。自分でも思うけど見事な棒読み。棒読み大会とかあったら優勝候補に入るかもしれない。あるわけないけど。

だけど仕方がない。なにせ今私の目の前に広がっているのは鮮やかな緑色の葉に縁取られた青空なのだ。爽やかさを感じる水色に近い青空から視線を横にずらせば青空を縁取っていた葉を繁らせる木々が、さらに動かせば落ち葉が敷き詰められた地面が広がっている。どこからどう見ても森、もしくは山の中。

こんな所で寝た記憶は全く無く、目覚めたら有り得ない場所に居たとなれば『森の中にいるかのような気分が味わえる超リアルな内装です』なんて現実逃避したくなるのも仕方ないと思う。

「ふぇっぶしっ!」

もう一度寝たら夢に出来るかなと儚い期待を抱いて眼を閉じた瞬間にくしゃみが出た。女の子らしさの欠片も無いくしゃみだったけど、家族以外に聞かれたので無ければ気にしない。…………。

「居ないよね?」

慌てて起き上がり辺りを確認する。見える範囲内には誰も居なくて、良かったと安堵すると、スカートの上に落ちていた落ち葉をぱっぱっと手で払った。

「あ……」

無意識にした行動。でも、今のこの状況は夢ではなく、紛れもない現実なのだと認識させられるには十分だった。

見渡す限り広がるのは太さも様々な木々とその木々から落ちた葉が敷き詰められた地面だけ。耳を澄ませても鳥の羽ばたく音や風が葉を揺らす音は聞こえても、車のエンジン音は聞こえない。

景色も、音も、自然そのものの物しか無い。

どうして私はこんな所に寝ていたの?

当たり前の疑問が浮かぶ。どちらかと言えば田舎に分類される場所に住んではいるけれど、小さな頃と違って虫も蛇も大嫌いで学校の林間学習でちょっとした山登りがあると知って本気で休もうか悩んだほどの私が自主的に山登りなんて絶対にしない。

そもそも記憶をどれだけ探っても山登りをした覚えなんか無い。一番新しい記憶は電車で三十分ほどの所まで友達と買い物に行ったこと。より詳しく言うなら友達と遊んで帰宅する途中だった。

事実、着ている服も履いているサンダルも歩きやすいけれどおしゃれさもあるものをと前日に考えて決めたものだし、側には自分の鞄だけでなくお店のロゴ入りのビニール袋もある。袋の中を確認すれば一目で気に入って購入した記憶通りの色と柄のスカートが入っていた。

なのに、空は抜けるような青空で、葉に邪魔されて太陽の位置は分からないけれど夕方というよりお昼頃と言った方がしっくりくる明るさだ。友達と別れ、最寄り駅に着いた時には夕方の六時を過ぎていたのは構内の時計を見たから確か。これから陽がより長くなってくる季節であってもこの明るさで今は夕方だと言うには無理しか無い。

何時、なんだろう。無意識に『何日』なのか考えることを拒否しながらいつものようにスマホで時間を確認するためにお店のビニール袋と重なって落ちていた鞄を引き寄せると手を突っ込みスマホを探す。

「何を探してんだ? 一緒に探してやろうか?」
「あ、大丈夫です。あったか、ら……」

背後から聞こえた耳に心地良い低音ボイスに思わず答えてしまったけれど、途中でこの場には私以外誰も居なかったことを思い出し、見つけたスマホを取り出そうとしていた手だけでなく体全体がビシッと固まった。


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