この蒼い空の下で

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不安になって眼だけで政宗を見たら、予想に反してどこか熱を孕んだ眼で私を真っ直ぐに見ていた。それに気付いた途端、急に動悸が激しくなって頬に熱が集まってきた。

政宗の視線から逃れようと更に深く俯いて体ごと後ろを向こうとしたら、気付いた政宗に引き寄せられてしまった。


「顔を下げるな。もっと良く見せろ」


密着した体にドクンと大きく心臓が跳ねた。恥ずかし過ぎていたたまれなくて落ち着かない。俯きたいのに、恥ずかしいのを優先して私が政宗に従わないことを最初から分かっていたのか俯けないよう顎を固定されてしまった。

間近で見つめてくる視線に堪えられなくて、ギュッと強く瞼を閉じる。耳の隣に心臓があるかのように煩いほどに鼓動が鳴っている。心臓が壊れてしまいそう。

顎を捕えていた手が頬に触れてきた。まるで壊れものを扱うかのような優しい手つき。


「美夜」


もうダメッ! 囁くように名を呼ばれたことで一気に限界を超えた。これ以上は本当に心臓が止まっちゃう。

頬の手を振り払うように顔を背けたら、柔らかく熱いものが頬を掠めた。


「・・・んで動くんだよ」


不満と少しの怒りを含んだ呟き声が落ちてきた。そろりと政宗を見たら、声の通りに眉間にシワを寄せて不満も露わな顔をしていた。

その唇に、ほんの少しだけ白いものが付いているのに気付いた。私の視線からそれに気付いたのか、政宗は無造作に親指でそれを拭った。

ぼんやりとそれを見ながら熱いものが触れた頬に指で触れた。頬には今、薄くだけど白粉を塗っている。白粉は白色で、政宗の唇に付いていたものも、白色。

政宗は、何て言った? もしも、もしも私が顔を動かさなかったら、政宗の唇は・・・。


「っ!」


そこまで考えが至るとこの至近距離に堪えられなくなって、政宗を突き飛ばして部屋の隅に逃げて体を丸め両手で口許を隠した。

政宗にキスされそうになったのかもしれないという思いが頭の中でグルグル回っていて、火を吹きそうなほどに顔が熱くて眼を回しそう。

ふと体に影が掛かった。少しだけ顔を上げたら青色の袖が眼に入った。ゆるゆると袖を辿ればそこには政宗の顔。

いつの間にか、壁に突いた政宗の両腕の中に捕われていた。

熱っぽさの中に何か別の、私の知らないものがチラつく眼差しに、視線が捕われて逸らすことが出来ない。心なしか政宗の瞳孔が獣めいた縦に割れているように見える。

なんだか、怖い。でも・・・。


「食べる、の?」


自分でもなんでこんな言葉が出てきたのか分からなかった。ただ、政宗の眼の奥にちらつく私の知らない未知の光を見ていたら自然とそう言っていたのだ。

ハッとなった政宗が私から体を離した。もうその眼からはあの得体の知れない光は消えている。


「・・食わねぇよ」


その言葉の前に「まだ」と言っていた気がしたけどあまりにも小さな声だったから聞き間違いかもしれない。


「おら、行くぞ。そろそろ時間だ」

「あ、うん」


差し出された手を取って立ち上がり部屋を出た。

政宗の後ろ姿を見ながらそっと胸に手を当てる。心臓は暴れるのは止めてくれたけど、トクトクとまだ少しだけ早い。

食べない、と言われた時、がっかりしてしまったのは気のせい、だよね?


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