この蒼い空の下で

□38
1ページ/7ページ


気付くとへにゃりと顔がだらしなく笑み崩れてしまう。

城中の人が温かく出迎えてくれたのが昨夜の事。嬉しすぎて泣いちゃって、旅の疲れと合わさっていつの間にか寝ちゃってた。

だから昨日は気付けなかったんだけど、城内に与えられた私の部屋は場所も内装も何一つ変わっていなかった。それこそ本当にちょっと留守にしていただけ、という感じ。

甲斐に飛んでしまったのはいきなりだったから、政宗達は私が元の世界に帰ったと思ったかもしれないって思ってた。だから部屋も片付けられていても仕方ないって思ってた。

なのに部屋は変わらずにあって、しかもきちんと掃除をしてくれていたらしく、放置されていたわけでもないみたい。

どうして政宗は片付けさせなかったのか気になるけど、そのままの形で残されしかも掃除までしてくれているとまるでいつ戻ってきても直ぐ使えるようにという配慮に感じて嬉しかった。

何より嬉しかったのは私付きの侍女さん達の私への態度も変わっていなかったこと。

旅の間に政宗から私付きの侍女さん達に私の事情を話しても良いか聞かれていた。私自身仕方ないこととはいえ隠し事ばかりなのが嫌だったし、彼女達ならきっと大丈夫だと思ったから良いよと答えた。

だから政宗は昨日、私を部屋に運んだ後に侍女さん達を集めて話したんだって。


「私達はあのような重大な秘密を打ち明けて下さった美夜様のお気持ちを決して裏切らないと誓います」


そう揃って言ってくれた。

昨日から嬉しいことが続き過ぎ。おかげで起きてからずっとえへえへと笑み崩れてばかり。侍女さん達にも何度も指摘されたけど、そんな侍女さん達も凄く嬉しそう。だから余計に顔を引き締めることが出来ない。

でも、次第にあることが気になり始めた。楓さんの姿が見当たらないのだ。

楓さんは物静かで控え目で、いつもひっそりと仕事をこなす。みんなの影に隠れるというか紛れるというか、とにかく目立つタイプじゃない。だからといって居ないことに気付かないほどじゃない。

それに一人一人に改めてただいまと、私の事情を全て受け止め受け入れてくれたことへのありがとうを言っていたから楓さんの姿を見逃すはずはない。


「あの、楓さんはどこに居るんですか?」


気になったから何気なく聞いただけなのに、侍女さん達は困惑げに近くの人と顔を見合わせた。


「どうしたんですか?」

「申し訳ありません、美夜様。私達も楓については何も知らないのです」

「知らないって、もしかして楓さんて今お城に居ないの?」

「はい」


頷いたあと、一番年長の侍女さんが代表して話してくれた。

楓さんはある日から姿を見なくなったという。楓さんは小十郎さんの遠縁の娘という触れ込みでお城に来たから他国の間者では無いだろう。でも小十郎さんの遠縁の娘、ということ以外郷里がどこかすらも誰も知らない。

その頃はまだ小十郎さんは戦から戻っていなかったから、綱元さんや侍女頭の女性に聞いたらしいのだけど、二人は楓さんは戻らないとしか言わない。

そうこうするうちに病気になった私(本当は私に化けた忍だけど)とお城を離れることになった。そうしてしばらく経った頃、戻らないと教えられた楓さんが突然みんなの前に現れて、別れと謝罪を言いに来たらしい。

その時の楓さんは衣服の端から包帯が覗いていて、動けないほどではないようだけど軽くはない傷を負っているらしいと分かって、詳しいことは何も言わずに去る楓さんを無理に引き止めることは出来なかったみたい。


「そう、なんだ・・・」


一対一だったり他の侍女さんも混ざったりとその時によって変わるけど、他愛ない話をすることもよくあったから居なくなると寂しい。

怪我、大丈夫なのかな。誰に聞いたら分かるんだろ。


「美夜様、小十郎様なら連絡先をご存知やもしれません」

「小十郎さん? あ、そっか。楓さんは小十郎さんの遠縁だっけ」


教えてくれた侍女さんにお礼を言って、小十郎さんの居場所を聞いてから部屋を出た。


次へ
前の章へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ