この蒼い空の下で

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ご飯を食べ終わって外に出る。すっごく嬉しいことがあったからか、周りの景色が茶屋に入る前よりも輝いて見える。

ウキウキとした気分で茶屋の外に繋いでいた馬の手綱を解いてる政宗達の側に行く途中、強めの風が吹いた。政宗が少し乱れた髪を片手で無造作に後ろにやったために眼帯が露わになってハッとなった。

お城までは城下街の大通りを通ることになる。だからこのまま行けばかなり高い確率で政宗の正体がバレると思う。茶屋でしたみたいに髪で眼帯を隠しても外だからいつ風が吹くか分からない。

それに城下街の人は茶屋のおじさんと違って出陣の時とかに小十郎さんの顔を見たりしてると思うから政宗だけどうにかしても小十郎さんからバレるかも。

もしそうなったら、城下街の人達は政宗と一緒に乗ってる私をどう思うんだろ。私だったらお殿様がわざわざ一緒に乗せてるってことは特別な人なのかもって思う。んでもしかしたら噂のお姫様かも!? って。

私と同じように思う人はきっといる。そしたらその人達は絶対にガッカリするはずだ。前に太一さん家から帰る時に名前と年頃は一緒でも顔がなぁ、みたいなことを言われてそれでもかなりショックだったのに噂の当人だとバレた上で言われたら・・・・。

想像しただけで泣きそうだわ。


「政宗、提案なんだけどさ、夜まで待たない?」

「What?」

「だから、夜まで待ってから行こってこと」

「理由は」

「り、理由? そ、それは、えぇと、その・・」

「絶世の美少女と噂の天姫だとバレたくないから、じゃない?」


絶対に面白がってるとしか思えない口調で佐助が言った。なるほどなと呟いた政宗がニヤニヤ笑ってるだろうことが見なくても簡単に想像出来る。

作戦変更。外堀から埋めよう。んで多数決にしちゃえ! そしたら政宗だって意地悪出来ないはずだ!


「小十郎さん、夜まで待ってもらえませんか?」

「俺は政宗様が構わないのなら異存は無い」

「えぇー・・・。じ、じゃあ幸村は?」

「すまぬ、美夜。俺は出来ればこのまま進みたい。遅い時間に伺うのは先方にも失礼となろう」

「でもさぁ旦那、竜の旦那が良いって言えば旦那も異存無くなるんじゃない? なんせこれから行くのは竜の旦那の居城なんだし」

「む、それは・・・。政宗殿、如何だろうか」


ちょっとー! 何よこの流れ! 結局政宗次第ってことじゃん! もうこれ絶対無理だよ! ドSの政宗が私のお願い聞いてくれるわけないもん!

でもやっぱり諦めきれないし、政宗はドSだけど優しい所もたまにあるからそこに期待して政宗を見た。政宗は思案する仕種をして、何か思い付いたのかニヤリと笑った。

散々政宗にイジメられてきた体が反射的に後退ろうとしたけどそれより先に手を掴まれてちょっと来いと言われて茶屋の裏手に連れて来られた。


「美夜、どうしても夜まで待ちたいか?」

「そ、そりゃ出来れば待ちたいけど・・・」


どんな無理難題を言われるんだろ。それともものっすごく恥ずかしいことされる? どっちなんだろと不安でドキドキしていたら、顎を掴まれ横を向かされた。そしてちゅっと音がして頬に柔らかい感触が触れた。


「これと同じことを俺にしたら夜まで待ってやる」

「へ?」


何をされたのか、何を言われたのかをジワジワと頭が理解して顔に熱が集まっていく。特に政宗にキスされた所は一際熱い。


「お前が極度の恥ずかしがり屋なのは知ってるからな、少しくらいは待ってやる」


そう言って政宗は腕を組んで茶屋の裏手の壁に凭れた。そんな訳で私は願いを叶えたいなら政宗の頬にキスをしなくちゃいけなくなったのだ。

こんなに恥ずかしいことされて更には私からもしなくちゃいけないなら普通の顔立ちの私が絶世の美少女と噂と天姫とバレちゃう方がまだマシかも。

あ、でもそれだとショックを受けるだろうことを言われるかもしれないし街に入ってからお城に着くまでずっとそれに耐えなきゃならないんじゃないの? それに城下街に遊びに行く時に私だとバレたらやっぱりショックを受ける羽目になるかもだよね? ってことは今恥ずかしいのを我慢するだけでいいこっちのが良いってことになるじゃん。あう・・・。


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