この蒼い空の下で

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「お前が極度の恥ずかしがり屋なのは知ってるからな、少しくらいは待ってやる」


ニヤニヤと意地悪な笑みを浮かべながら腕を組んで壁に凭れた政宗を睨む。だけどそんな私の顔はさっき政宗にされたことのせいで真っ赤だし眼も潤んでいる。

私が政宗に何をされたのか。ことの発端は今朝だ。早朝のキンと冷えた空気の中、宿で働く少年が政宗達の馬を引き出してくるのを寝ぼけ眼を擦りながら待っていた時に政宗が教えてくれた。

今日の昼過ぎ頃には城に着くって。お城はもちろん政宗のお城。甲斐に飛ばされる前まで私も寝起きしていたお城だ。本当は昨夜のうちに伝えるつもりだったらしいんだけど疲れてた私は夕飯を食べながらもうつらうつらしてて、食べ終わると直ぐに寝ちゃったから今朝になったみたい。

とにかくお城に着くってことは慣れない旅も終わりってこと。なにより成実さんや綱元さん、楓さん達侍女さんや見た目がアレだけど気は良い兵士さん達みんなに会えるってこと。

嬉しくなって眠気も吹っ飛んだ。早く会いたかったけどここで馬を走らせても良いよ、なーんて言ったらお城に着く頃には眼を回すか着いた途端に胃の中のものを戻すとかしちゃいそうだったから何も言わなかった。久しぶりの再会なのにみっともない姿を見せたくないもんね。

ウキウキしながらいつものように政宗の馬に一緒に乗って宿を出発し、お昼には少し早い時間に茶屋を見つけたから昼食を兼ねた休憩を取ることになった。お昼には早いと言っても夜明けと同じくらいに起きて、朝食を食べたらすぐ出発だったからお腹は空いてる。

宿で作ってもらったお握りと、茶屋でもお団子とお茶を注文して美味しいねーなんて幸村と話していたら(なぜか政宗には睨まれながら)店主のおじさんが話し掛けてきた。


「あんた達、見た感じお侍さんのようだけど、もしかして伊達のお殿様に仕えてるのかい?」


仕えてるも何もそのお殿様がおじさんの目の前に居るんだけど。思わず政宗を見るけど、自分のことを言われてるなんて全く気付いていないかのように無反応。涼しい顔でお茶を飲んでる。政宗は店内に入る前に目立つ眼帯をさりげなく髪で隠してるからおじさんもまさかそのお殿様が目の前に居るとは気付かないんだろう。


「伊達のオトノサマがどうかしたの?」


どことなく面白がってそうな口調で佐助が聞いた。


「お殿様が、ってよりお殿様の許婚の天姫様のことなんだがね」

「んぐっ!」


不意打ちの単語にお団子が喉に詰まった。ボソリと反応し過ぎだろと呆れた口調で言いながらも政宗が渡してくれたお茶を飲んだ。

政宗は自分のことを言われても無反応だったのに私は思いっきり反応しちゃったのがなんだか悔しい。勝負なんてしてないのに負けた気分だ。

気遣ってくれるおじさんに大丈夫ですと頷いて、話の続きをお願いした。


「近々天姫様が城にお戻りになるって噂を聞いたんだよ。あんた達殿様に仕えてるなら何か知らないかと思ってね」

「真実なんじゃねぇか?」

「そりゃ本当かい? もしそうならこんなに嬉しいことはないねぇ」


腕を組んでしみじみと頷くおじさんを見てたら照れくさくなってお茶を飲むふりをして顔を隠した。関わったことの無い人までが私が戻ることを喜んでくれてるなんて。


「美夜は領民からも慕われておるのだな」

「そ、そうなのかな」


新たに来たお客さんの方におじさんが行った後に幸村がそう言ってくれた。ますます照れくさくなってはにかんでいたら、ぐいっと政宗に引き寄せられた。


「お前ほど最高の女は居ねぇな」


私にしか聞こえないだろうくらいの声で言われた。なんでこんなコソコソと言われたのか気になるけど、褒められたこともそうだし何より政宗からこんな言葉を言われたことが言葉に表せないくらい嬉しかった。からかい口調じゃなかったから政宗の本音だと思うもん。

もし座っていなかったら高ぶった感情のままに恥ずかしさも忘れて政宗に抱き着いていたかも。


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