この蒼い空の下で
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後で政宗にする仕返しを考えながら帰る準備に取り掛かった。って言っても特殊な方法でこっちに来たから荷物なんて無い。お守りさえ忘れなければいいだけで、それも常に首からぶら下げてるから心配は無い。
だから準備は旅をするための格好に着替えることと、貰った着替えの着物を風呂敷に纏めることくらい。
それから後はお世話になった人達に挨拶。お館様は今政宗とお話中らしいから先に侍女さん達に挨拶して回ったんだけど、政宗の許婚ってことになってるためか身分が高いと思われてるみたいで挨拶したことに驚かれた。
お礼を言うのに身分なんて関係無いと思うんだけどなぁ。身分ってよく分かんない。
一通り別れの挨拶とお礼をし終わって正門前の広場に行くと二頭の馬が引き出されてた。政宗の馬には何度か乗せてもらっているけど、引き出されてきた馬は二頭とも毛色が茶色。よく見たら額の白い毛の部分の模様が違うけど、政宗の馬はどんな模様だったかなんて覚えてない。
どっちが政宗の馬なんだろ。先に荷物を括り付けおいたらそっちに乗せてもらえるかもしれないから、政宗がどっちの馬に乗るのかはとっても重要。
近付いてじっくり見て、右の馬がそうなんじゃないかって思った。理由は政宗みたいに目付きが悪く見えたから。ペットは飼い主に似るって言うしね。
となれば左の馬に荷物を括らせてもらおう。って言ってもどうやるのか分からないから頼むことになるんだけど。
「ふぎゃ!」
馬を引いてきた男性にお願いしようとしたら右の馬に脇に頭突きされた。結構強かったからこけそうになった。それに腰が痛い。こいつ絶対に政宗の馬だ! 小十郎さんの馬ならこんなことしないもん!
「すいません。こっちの馬にこの荷物を、ふげっ!」
今度は背中に頭突きされた。二度も馬に頭突きされたせいで頼もうとした男性が笑いを堪えている。この馬鹿馬のせいだ。女相手に失礼過ぎるとこが飼い主そっくり!
もう荷物を括り付けるのは小十郎さんが来てからにしよ。でないとまたこの馬鹿馬に何かされそうだもん。
荷物を胸に抱えて、馬鹿馬から離れる。念のために後ろ向きに、だ。男性がぶふっ! と吹き出して慌てて口許を押さえながら横を向いたのが見えた。こんな恥ずかしい目に合うのも全部政宗のせいだ!
「お前何を睨んでんだよ」
馬鹿馬との睨み合いをしていたら政宗達が来た。呆れた口調が今の私にはイラッとくる。
「政宗! あの馬躾し直して!」
「Ah? なんでだよ。今でも十分じゃねぇか」
「どこがよ! あいつ私のこと二回も頭突きしたのよ!?」
タイミング良く問題の馬鹿馬がヒヒンと鳴いた。それがまるで政宗に自分の行動を褒めてほしがってるみたいに感じてさらにイラッときた。
「どういう状況で頭突きされた」
なんでそんなこと聞くのか分からなかったけど話したら、政宗は頭突きの理由が分かったらしい。満足そうに笑うと馬に近付いて労うように首を叩いた。そんなことするから性格の悪い馬になるのが分かんないの?
「小十郎さん、一緒に乗せてください」
「この様子では先は長そうだな」
意味がよく分からない返事だったけど、小十郎さんは私の荷物を受け取ると自分の馬の鞍に括り付けに行った。よーし、これでもう大丈夫だ。
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