この蒼い空の下で

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目許を擦っていたら佐助に優しく頭を撫でられた。


「薄情なんじゃなくて心境に変化が起きたんじゃない?」

「変化?」

「どんな、ってのは無責任なことは言えないから自分で考えてもらうしかないけどね」

「ケチ」

「可愛くない口はこれかなー?」

「んにぅ!」


にこにこ笑いながら唇を摘まれてさらに捻られた。痛いってば! この馬鹿力!


「冗談はこれくらいにして、」


口が曲がるかと思うくらい捻っときながら軽く流すな! 睨む私を余所に佐助は懐から包みを取り出し、中から幾つか炭を取り出して火鉢に入れた。火箸で燃えている炭を弄って入れたばかりの炭に火を移す。無事に済むと火箸を灰に刺して私を見た。


「紗夜ちゃんは薄情なんかじゃないよ。これだけは絶対」


そう言って佐助は私の頭を撫でた。こーゆー時の佐助の手は、優しいお兄ちゃんが居たらこんな感じなのかなって思うくらいに優しい。

と、部屋の前の廊下をパタパタと足音を立てながら足速に歩く数人の侍女さんらしき女性の影が映った。声は聞き取れなかったけど、なんだかはしゃいでる雰囲気は伝わってきた。


「到着したみたいだね」

「お客様?」

「そ。暇だからってうろついたりせずに部屋に居なよ?」


そう言って佐助は普通に障子を開けて部屋を出て行った。現れる時も普通に現れてくれればいいのに。

にしても、うろつくなってことはお客様と私が鉢合わせたりしないようにってことかな? 礼儀作法も知らないお姫様でもない私が会ったらダメなくらいすんごい身分のお客様なのかな? でももしそうなら侍女さん達のあのはしゃぎ様もダメな気がするし・・。

気にはなるけど、お館様に迷惑を掛けたくないから大人しく部屋に居ることにした。佐助が新しい炭を入れてくれたから火鉢から出る熱は途切れることなく室内を温めてくれる。

また侍女さんらしき影が部屋の前を通った。さっきの人達よりもはしゃいでるように感じた。今度はカッコイイだの素敵だの言う声が聞こえてきた。ますます気になってきたけど我慢、我慢。

暇潰しに炭を端に移動させ、出来たスペースの灰の部分に火箸で絵を描いてみた。誰を、とは考えずテキトーに描いたのに、出来上がった絵は片目が隠れててもう片目は吊り上がり気味な不敵に笑ってる人物の顔。簡略化した顔なのに、なぜかどう見ても政宗にしか見えない。

なんでこんな絵描いちゃったんだろ。

消そうと思ったけど結構上手く描けたから勿体なく感じてそのままにしておいた。ついでにまだ空いてたスペースに『ドS』と『バカ』って書いて政宗の絵に向けて矢印を書いておいた。

書けるスペースがなくなって、また暇になった。火鉢の縁に頬杖を突いて燃える炭をぼぉっと見つめる。


「紗夜ちゃん、お客さんだよ」

「ん、にゃっ」


掛けられた声に手から顎が落ちてカクッとなった。いつの間にか寝ちゃってたみたい。まだ頭がぼんやりする。ふぁ、と小さく欠伸をしながら、そーいや佐助が入室前に声を掛けてくるなんて初めてなんじゃないかと思っていたら、室内に冷気が流れ込んできた。

まだ返事してないのに。声掛けたなら返事するまで待つくらいしろっての。と思いながら障子の方に顔を向けようとした時には誰かに強く抱きしめられていた。

相手の胸に顔を押し付ける形になって、相手の服に染み付いた匂いが強く匂った。汗や埃の匂いと微かにお香らしき良い匂い。そして煙草っぽい煙たい匂い。

その匂いを嗅いだ途端涙が溢れた。相手の腕の力が強くなり、その腕の感触にますます涙が溢れて、訳が分からないまま相手にしがみつきながら声を上げて泣き出していた。


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