この蒼い空の下で
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「はぁ・・・。暇だなぁ」
幸村は鍛練中だし、いつもなら話し相手になってくれる侍女さん達はみんな忙しそう。なんでも今夜は宴があるんだって。内輪のものらしいけど、でもお客様を迎えてのものだからと朝から準備をしているみたい。
やることなくて暇だしお手伝いしようと思ったんだけど、恐れ多いと断られてしまった。ここでは私はお館様が引き取った娘ってことにってて、身内未満お客様以上みたいな感じの扱いになってるからだ。
この時知ったんだけど、お館様はいずれ私を養女に迎えるんじゃないかと思ってる人がたくさん居たことには驚いた。偽の設定から考えたら有り得ないことじゃないかもだけど、養女とはいえ武田信玄の娘だなんてそれこそ恐れ多いよ。
まあそんなことにはならないけどね。だってここに居るのは元の世界に帰るまでだもん。
「帰る・・・」
「また何か悩み事?」
「ひぎゃあっ!」
ぽん、と肩を叩かれてびっくりして跳ねた拍子に火鉢に膝をぶつけた。ゴツッと音がしたしかなり痛い。なのに佐助は謝るそぶりを見せずに火鉢を挟んだ向かい側に座った。コノヤロウ。
「この部屋は温かいねー。外は寒くって俺様参っちゃうよ」
そのまま外に居ろよ。そしてガタガタ震えてろ! って思いたいけど佐助の前では思うだけでも危険。佐助と居ると気疲れする。ストレスたまりまくりだよ。
佐助にぶつけられない代わりに火箸で火鉢の中をざりざりとちょっと乱暴に掻き混ぜる。半分ほど燃えてた炭の燃え方が少し強くなった。
「で? 今度は何悩んでんの?」
「別に悩みってほどじゃ・・・」
「なら何か気になることでもあるの?」
チラリと佐助を見る。不思議。こういう時の佐助には反発心が起こらない。太一さんを思い出すからなのかな?
「あのさ、その・・・私って、薄情だと思う?」
「竜の旦那達に何も言わずにこっちに来たこと気にしてんの?」
「ううん。気にならないわけじゃないけど、でもそれは私の意思でやったわけじゃないから仕方ないことだし」
「じゃあなんで自分が薄情だなんて思ったわけ?」
「その、ね・・・・・あんまり、帰りたいって思わなくなった気がして・・・」
「元の世界に?」
「うん。感情の異変を抜きにしても、前よりも帰りたいって気持ちが強くない気がするの」
「前ってのはいつ? 奥州に居た頃? こっちの世界に来たばかりの頃?」
「こっちの世界に来たばかりの頃」
夏頃はいつもってくらい早く帰りたいと思ってた。その頃はまだ気付いてなかったけど、感情の異変の関係でホームシックになることも無かった。でも、向こうの世界がどうなっているのかはいつも気になってた。
私が帰る時、来た時と同じ日同じ時間同じ場所に帰れるなら良いけど、もしこっちの世界で流れた時間と同じだけの時間が流れていたら、私はその間行方不明だったってことになる。
携帯のバッテリー切れが起こらなかったり、時計が止まったままのことを考えれば(壊れただけかもしれないけど)向こうの世界の時間は流れていないのかも。そう考えたこともある。だけど本当にそうなのか確かめることは出来ない。
向こうの世界の時間がどう流れているか分からない以上、じいちゃんやばあちゃんに心配を掛けてしまう可能性は残り続ける。
私は元気でいるのに、それを伝えられない。心配を掛け続けているかもしれない。そう思うと心が苦しかった。だから早く帰りたかった。
なのに最近じゃ帰りたいという思いが一つの義務のように感じることがある。
「なんか、帰りたくなくなってるみたい」
ぽつりと呟く。言葉に出したら本当にそうであるような気さえしてきて、罪悪感が襲った。
こんなの、心配させてるかもしれないじいちゃんとばあちゃんに対する裏切りだよ。
じわっと涙が滲む。最近涙もろくなった気がする。人前で泣くのは好きじゃないのに。
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