この蒼い空の下で
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「見たところ普通の石じゃな。美夜もなぜ他者が触れると痺れや痛みを感じるのかは分からぬのじゃな?」
「はい。それに、痛みを感じる人が居たのも初めてです。政宗がお坊さんとかに聞いて調べてくれたんだけど、神仏の加護が宿ってるって言われたらしいです」
「神仏の加護、か」
お館様はもう一度じっくりと石を見たあと布で包んで袋に戻した。出す時も戻す時も扱いは丁寧だ。
佐助は幸村だけじゃなくてお館様も見習うべきだよ。横目で佐助を睨んでいたら、お館様が軽く身を乗り出しお守り袋の紐を私の首に掛けてくれた。途端に心細さや不安が跡形も無く消えていく。
「大将!? 良いんですか? 返しちゃって」
「構わぬ。お守りとは持ってこそ意味があるもの。佐助にだけ痛みを感じたのも案外それが原因かもしれぬぞ?」
「そりゃ心当たりはありますけどね」
私の胸元を触ったり腕を捻ったり折るって言って脅したり。私が佐助のことを大嫌いになるには十分なことを佐助はしてる。
お館様の言う通り、だから佐助だけ痛みを感じたのかな? 政宗だって私にセクハラしてくるし、成実さんはそれを見ても助けてくれなかった。
私の嫌がることをした人にだけ何かがある、ってこと?
このことも政宗に伝えておいた方が良いよね? そこまで考えて気付いた。私はこれからどうなるんだろう。政宗の元に帰れるのかな? 佐助はここでの私の立場は敵国の人間だって言ってた。物語とかだと敵国の人間は牢屋に入れられたり人質にされたり、が定番だけど・・・。
「あの、お館様」
「なんじゃ?」
「私、これからどうなるんですか?」
「そうじゃのぉ。そなたは奥州に帰りたいじゃろうが、それはちと難しい」
「敵国だから、ですか?」
「その通りじゃ。同盟を結んでおるなら幸村と佐助を護衛に付かせ送ることも出来るが、今の現状ではそうもいかん。情報を探る他国の忍にいらぬ疑いを持たれよう。密かに移動したとて完璧に隠すことは難しい。かと言ってそなた一人で行かせるには道中は危険に満ちておる」
諦めるしかないと言われてしまった。もう会えないんだと思ったら、胸の辺りが苦しいような冷たいような不思議な感覚に襲われた。視界がぼやけるなと思ったら泣いていた。お館様が大きな手で私の頭を優しく撫でてくれる。
「そなたを奥州に帰すことは今のところは無理じゃ。じゃが、だからといってここから追い出すつもりは無い」
「置くんですか?」
「反対か?」
「反対も何も、俺は忍ですからね。上の決定に従いますよ」
「幸村よ、おぬしはどう思う」
「某もお館様のお考えに賛成でございまする。か弱き女子を寒空の下に放り出すなど出来ませぬ」
肩を竦める佐助を見て、安心させるよう力強く頷いてくれた幸村を見て、最後にお館様を見上げる。お館様は好々爺といった感じの笑みを浮かべいる。そして大きな手に見合った太い指で、それに似合わない優しさで頬の涙を拭ってくれた。
「そなたの名は天姫との呼び名の方が広く知られておるが、念の為に偽名を名乗ってもらうことになる」
「・・・・はい」
「立場はどうするんです?」
「身寄りを無くした娘を儂が拾ったことにでもすれば良い。さて、今宵はもう遅い。続きは明日でよかろう。我が家と思うて寛ぐことじゃ」
好々爺の笑顔の浮かべたままお館様に頭をぽんぽんと優しく叩かれた。奥州からいきなり飛ばされた先が幸村やお館様の所で良かった。
佐助は大嫌いだけど!
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