この蒼い空の下で

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佐助の後に着いて歩く。私の素性は気軽に話さないという政宗との約束を破ってしまう申し訳なさとお守りが手元に無い不安、そして佐助への苛立ちが合わさって奥歯を噛み締めていないと泣いてしまいそう。

嫌い。大嫌い。佐助なんて大嫌い。背中を睨むくらいしか出来ないのが悔しい。

さっきよりもさらに荒れが酷くなってた場所を通って連れて来られた部屋には、既に幸村とさっき見たスキンヘッドのおじいさんが居た。

二人ともさっきの暑苦しい様子が嘘みたいに静か。

おじいさんが上座に座っているし、さっき幸村がお館様と叫んでいたからやっぱりこの人が武田信玄なんだろう。

さっきは体育会系の暑苦しい人という印象だったけど、今はどっしり構えた巌のような風格と威厳を備えた人にしか見えない。同じ人なのかとびっくりしてしまう。

佐助に示されてお館様の正面に座る。目が合うとお館様は、ふ、と相好を崩した。途端に今度は好々爺といった印象に変わった。


「名は何と言う?」

「美夜、です」

「美夜か。良い名じゃ。先程はすまんかったのぉ。驚いたであろう」

「え、と」


正直に頷いても良いのかな? 優しそうだけど、でもお殿様だし。どんな態度を取れば良いのか迷っていたら、お館様が立ち上がった。どうしたのかと思ってたらなんと私のすぐ目の前にどっかと座り直した。

ちょっと手を伸ばせば届く位置だ。びっくりしてたらぽんぽんと優しく頭を叩かれた。肉厚の大きな手。政宗に撫でられるのとは違った安心感がある


「そう堅くならずともよい。幾つかそなたに聞きたいことがあるだけじゃ」


その言葉に、まるで私の逃走を防ぐかのように襖の前に座っている佐助を見る。お守りは佐助の横に無造作に置いてあった。政宗達みたいに布越しでも痺れるのかもしれないけど、大切なものだからちゃんと扱ってほしいのに。


「うん? 佐助が気になるのか?」

「話したら、絶対に返してくれますか?」

「返す、とは?」

「お守りです。大切なものなんです」


お守りを指差すと、お館様はふむ、と頷くと佐助にお守りを渡すよう言った。けど、佐助はそれを拒否した。得体のしれないものを大将に持たせるわけにはいかない、って。


「お守りなのであろう? 何故それほどに警戒する」

「ただのお守りなら触っただけで手に激痛が走ったりしませんよ」


激痛? 変だな。政宗達は痺れるって言ってたのに。

お館様は構わぬと佐助からお守りを受け取った。けど、特に変わった様子は無い。


「平気なんですか?」

「平気じゃ。痛みどころか何も起こらんぞ?」

「何も?」


信じられないといった表情を浮かべた佐助がお館様の手の平にあるお守りに手を伸ばした。だけど指先がちょっと触れただけなのに不自然に手が痙攣した。

それでも無理に持ち上げようとしたみたいだけど小さく苦悶の声を漏らして手を引いた。結局触れたのは指先だけ。そして痛みを振り払うかのように手を振ってる。


「やはり痛みとやらがあるか?」

「ありますね。並の人間なら悶絶してると思いますよ」

「ふむ・・・。幸村よ、おぬしも触ってみよ」

「はっ。美夜殿、触れても良いだろうか?」

「良いけど・・・」


一言聞いてくれる幸村はやっぱり良い人だ。佐助とは大違い! でも悶絶するくらい痛いって、ほんとに? 幸村は大丈夫かな?

ハラハラしながら見守っていたけど、幸村も平然と触ることが出来ていた。


「お館様、某も何も感じませぬ」

「そうか。美夜よ、これはどういうお守りじゃ?」

「分かりません。いつからか持ってて、政宗に言われるまで普通の石だって思ってたましたから」

「伊達の小伜も触れると痛みを感じたのか?」

「政宗達は痺れるって言ってました」

「そなたは触れても痺れや痛みを感じぬのか?」

「はい」

「中身を出しても良いか?」


頷くと、お館様は袋から布の塊を取り出し包みを解いた。ころんと出て来た乳白色の石はお館様の手が大きいからかより小さく見える。

あれ? と思った。いつの間にか出来ていたヒビが少し大きくなってるように見えた。大切にしっかりと布に包んでたのに。

ううん、まだ分からない。お館様の手が大きいからそう見えるだけかもしれない。返してもらったら確認しよう。


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