この蒼い空の下で
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「美夜殿、あそこがお館様のおられる躑躅ヶ崎館でござる」
「あれが? ほんとにお城じゃないんだー」
太陽がほとんど沈んだ頃に見えてきた建物は平屋だった。縦じゃなくて横に広そう。
「でもなんでお城じゃないの?」
「民の声が届きやすいようにと彼らと近き場所にお館様は住まいを構えられたのだ」
「凄い人なんだね」
「もちろんでござる! お館様ほどの御仁はおられぬでござる!」
「そうなんだ。でさ、そのお館様って、誰?」
まだ教えてもらってないから聞いたのに、幸村がものっすごい驚いた。お館様のことをかなり尊敬してるみたいだから知らないことが信じられないみたい。でも知らないもんは知らないんだもん。
「お館様ってのは武田信玄公のことだよ。躑躅ヶ崎館って所に住んでるから周りからお館様って呼ばれてんの」
「へぇ〜」
佐助が代わりに教えてくれた。なるほど。お館様の名前は武田信玄なのか。・・・・・え?
「武田信玄んんんんん!?」
「美夜ちゃんでも通称じゃなく本名なら知ってるんだ」
にこにこと笑いながらさりげなく酷いことを言われた気がしないでもないけど今はそんなことを気にしてる場合じゃない。だって武田信玄だよ? 川中島の戦いとかの超有名人じゃん! うーわー、どうしよ! ドキドキしてきた! どんな人なんだろ。
政宗みたいなドSな変態じゃないと良いなぁ。ドSで変態でセクハラ野郎な奴はもう政宗と佐助で十分だもん。二人居ることがもういっぱいいっぱいだし。
あ、でも超が付く良い人の幸村が尊敬してるんだらドSな変態の可能性はほとんど零かも。とりあえず一安心、かな?
屋敷に着くと門からして立派で、思った通り敷地が広そう。佐助に馬から下ろしてもらって手足の汚れを落とすと小部屋に案内された。佐助だけが残ってて、夕飯のお膳を出された。お腹が減ってたから有り難く頂きます。
「いただきまーす」
「食べるんだ」
「え!? 食べちゃダメなの!?」
「もちろん良いよ。けどさ、警戒とかしないわけ? ここは一応敵の手中なんだよ?」
「敵って誰の?」
「伊達のだよ。公には美夜ちゃんは竜の旦那の許嫁だろ? ってことはつまり美夜ちゃんは伊達に属する人間ってことになるんだから美夜ちゃんにとってここは敵国になるんだよ? その辺分かってる?」
ふるふると首を横に振って俯く。全然分かってなかった。こっちの世界のことを勉強するって決めたのに。しっかりしなきゃ!
「ねぇ佐助、いろいろ聞いても良い?」
「美夜ちゃんも俺の質問に嘘偽り無く包み隠さず全てを正直に話してくれるなら良いよ」
にこり、とわざとらしい笑顔を向けられた。嘘偽りなく包み隠さず、って要するに私がどこから来たか、とかだよね? でもそんなほいほい簡単に話して良いことじゃないし話したとしても信じてもらえない可能性の方が大きい。
「約束出来ない?」
「信じてもらえないと思うもん」
「信じるかどうかは聞いてから決めるよ。って言っても話してもらうのは今じゃないんだけど」
「いつ?」
「今旦那が大将、お館様のことね。に山賊退治の報告をしてるからそれが終わったらだよ。だからそれまでご飯食べて待ってようねー」
またわざとらしい笑顔向けられて頭を撫でられた。政宗にされると嬉しいし、小十郎さんなら仲の良いおじさんか歳の離れたお兄ちゃんにされた気分になる。けど、今の佐助の撫で撫ではすっごく不愉快!!
「今の子供扱いでしょ!」
「あ、バレた? 美夜ちゃんてちっっさいからついね」
「ついじゃなくてわざとでしょ! あとちっさいに力込めるな!!」
やっぱりこいつ大っ嫌い!!
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