この蒼い空の下で

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「今日はわざわざありがとね」

「いえ、こちらこそお土産まで貰っちゃって」


作った栗きんとんの入った包みを見る。せっかく作ったんだからと分けてくれたのだ。


「気にしないで。教えてもらったお礼みたいなもんだから」


気をつけてねと太一さんに見送られて帰り道を急ぐ。まだ明るいけど、この時期の日暮れは早い。それに綱元さんからも日暮れ前には必ず戻るようきつく言われている。

そういえば、今日の綱元さんは変だった。前に城下へ行くことを伝えた時にも日暮れ前に戻るように言われたけど、今日は特に念を押された。それに城下に行くことを伝えた最初は渋っているみたいだった。結局はこうして許可してくれたけど。

そんなことを考えながら歩いていたら、前方の横道から見覚えのある人が歩いてきた。楓さんだ。今日は侍女のお仕着せではなく私服らしい着物姿だから最初はちょっと分からなかった。向こうも私に気付いて待っていてくれた。


「今からお帰りですか?」

「楓さんもですか?」

「はい。ご一緒しても構いませんか?」

「もちろんです」


楓さんと並んで歩く。知り合いに会ってきた帰りなのだと言う。楓さんは物静かな人で、自分からはあまり喋らない。最初の頃は正直苦手だった。

でも話し掛けるとちゃんと答えてくれるし、最近は楓さんからも話し掛けてくれるようになったから苦手意識はもう無い。それなりに弾んだ会話を交わしながら二人並んで歩く。


「美夜様、こちらへ」

「え?」


この先の角を曲がって少し歩けば大通りに出るという所まで来た時、突然楓さんは私の手を掴んで横道に逸れた。歩く速度も早足だし、楓さんの横顔は緊迫したものだ。


「楓さん、どうしたんですか?」

「美夜様、もしもの時はこちらを吹いてください」


質問には答えてもらえず、変わりに小指ほどの大きさの笛を渡された。特殊な作りの笛らしく、普通の笛よりも遠くまで響くため、緊急時に使う笛なのだという。なんで楓さんがこんなものを持っているのか、そしてそれを渡されるのか。ますます訳が分からない。

楓さんが再び私の手を引いて歩き出そうとした。けれど直ぐに止まって別の横道に入っていく。横道に入る寸前に、進もうとしていた道を見ると、腰に差した刀の柄に手を添えた男が私達の方へ走ってきていた。しかも、二人。

男の一人と眼が合った。その瞬間、喉が詰まるほどの圧迫感を感じた。成実さんに初めて会った時に感じたものとよく似ている。

それが殺気と呼ばれるものだと知ることもなく、楓さんの歩く速度が上がって必然的に私の足も早まった。もう歩くというより走っている。


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