この蒼い空の下で

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「美夜ちゃーん?」


目の前で手を振られてハッとなる。またぼぉっとしちゃってたみたい。


「今日も元気ないね。またなんか悩み事?」


聞くよ? と言ってくれた太一さんに大丈夫ですと答えて栗が蒸し上がるのを待つ。

前と違って今回は話せない。太一さんは前のように深く追求してくることはなくて、何気ない話題を話し掛けてきてくれる。ぼぉっとしてしまわないようにと積極的に私からも喋った。

でも、こうやって呑気にお菓子を作っていてもいいのかなって思う。ずっと罪悪感のようなものがある。


『今日明日にでも戦火が開かれるでしょう』


城下に行くことを伝えに行った時に綱元さんが教えてくれた。私がこの世界のことを学んでいきたいと言ったから、隠さずに伝えることにしたのだとも教えてくれた。

聞いた時、城下に行くのをやめようかとも思った。でも、やめたからって私に何か出来ることがあるわけじゃない。それに太一さんとの約束をすっぽかすわけにもいかなかった。

だけど、太一さんに気を使わせてしまうくらいなら仮病でも使えばよかったかも。どのみち約束は数日中にというもので今日と決まっていたわけじゃないし。

政宗が、伊達軍が勝ったって知らせを聞いてから改めて太一さんを訪ねて、体調を崩しててって言えば・・・。嘘をついちゃうことになるけど気を使わせてしまうよりはマシな気がする。今更なんだけど。


「ねぇ、それよく触ってるけど、中に何が入ってるの?」


指摘されて気付く。いつの間にかお守り袋を握っていた。最近多い。癖になっているのかも。神仏の加護があるらしいからって祈っても叶うかなんて分からないのに。


「石です。これ、お守りなんです」


袋から布の塊を取り出し、見えやすいように手の平の上に広げる。


「随分大切にしてるんだね。誰かから貰ったものとか?」

「どうなんだろ。いつから持ってたのか覚えてないんです」

「物心つくまえから持ってたってこと?」

「多分。あっ!」


太一さんが石に触ろうとしたから慌てて石を握り締めて隠す。触ってないよね?


「ごめん。お守りなんだから勝手に触ったらダメだったね」

「すみません」


太一さんの様子を見る限り、どうやら触ってはいないらしい。ホッとする。流石に一時的にでも渡すことは、政宗の時と違ってかなり躊躇うけど、触ることくらいなら平気。

だけど政宗や成実さんが言うにはこの石に触ると痺れるらしいから、気味悪がられたりしないためにも触られるのは避けなくちゃって思う。

石を布で包んで袋に戻しながら、どうしようと思う。少し空気が悪くなっちゃった気がする。なんだかちょっと気まずい。


「そろそろ蒸し上がったかな」


太一さんが立ち上がって蒸し器の様子を見に行った。そしてちょうどいいみたいだよと栗をザルに開けて持ってきた。


「次は中身をくり抜くんだよね? なら団扇使って触れるくらいまで冷まそっか」

「あ、はい」


さっきの出来事は無かったかのような態度で話し掛けてくれた。優しいなって思う。そして今はその優しさが凄く有り難かった。


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