この蒼い空の下で

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これ以上励ましの声を掛けられるのに堪えられなくなって、鍛練場を離れた。かといって部屋に戻る気にもなれなくて庭に降りてぶらつく。陽射しは暖かいけど風が少し強くて肌寒い。一枚羽織ってくれば良かったかも。

誰かに聞いて一度部屋に戻ろうか悩んでいると、人々の話し声が聞こえてきた。近付いていくとそこは台所の裏側で、たくさんの人が荷車から薪や食材を下ろしていた。

奥からは新たな荷車が引かれて来ていて、彼らの邪魔にならないよう塀沿いを通って荷車が来る先に向かう。さほど歩かないうちに裏門、と呼ぶのが正しいのか、質素な木戸が見えてきた。荷車はそこから運び込まれていた。

ちょっとした出来心だった。お城から逃げ出したかったわけじゃない。ただ、誰も私のことを知らない場所に一時だけでも居たくなっただけ。

荷下ろしが行われている場所に戻ると、空き箱や纏めたござが積まれた荷車に近付いて誰も私に気付いて居ないことを確認してから荷車に乗り込んだ。見つからないようにござで体を隠す。

軽くなるはずの荷車が重いと、見つかったらどうしようと緊張で鼓動が早くなり手の平に汗が滲む。と、荷車が僅かに揺れた。ござの隙間から覗き見るとバスケットボールほどの大きさの瓶(かめ)が二つほど乗せられていた。

周りの話し声から、中身は小十郎さんの作った野菜を使った漬け物だと分かった。食材や薪代の一部として貰ったものみたいで、幻とも言われる小十郎さんの野菜が食べられると喜ぶ声が聞こえる。

その後も空き箱やござが積み込まれた。そして最後に荷下ろしを手伝っていた子供が数人空き箱に座るように乗り込むと、荷車が動き出した。

子供達は手伝ったご褒美にお駄賃を貰ったみたいで、それを持って城下に行くらしい。そのおかげで荷台の重さを不審がられることは無かった。

見つからないよう揺れる荷車の中で息を殺してどれくらい経ったか。途中で子供達は降りて行ったけれど、隠れている私は人目がある時には出ていけない。

続く緊張に疲れてきた頃、また揺れが止まった。耳を済ませば空き箱やござの片付けを指示する声が聞こえる。目的地に着いたらしい。

ござを少しずらして辺りを伺い、周囲から人が居なくなるのを待つ。なかなかその機会が来なくて、このままじゃ見つかってしまうと焦りが生まれ始めた頃、瓶が運ばれていき中身を知った周囲がワッと瓶を持つ男の元に集まって行った。

周囲から人が居なくなる。恐る恐るござから顔を出して辺りを見回すと、全員が一つの場所に集まっていた。あの中心に漬け物入りの瓶を持った男が居るのだろう。瓶が室内に運ばれてしまえば彼らの意識はまだ残る荷車の中身に戻ってしまう。

今のうちにと音を立てないように荷車から降りると走ってその場から離れた。


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