Short Story

□変態馬鹿夫と子育て。
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「Honey、俺達のBabyはなんでこんなに可愛いんだろうな。Honeyの子だからだな」

問いの形を取っていても続けて自分で答えを出して満足げに頷いている政宗を冷めた眼で見る。出産したのが昨日の夜明け前。今は翌日の夕刻。その間に政宗の一人やり取りを聞いた回数はすでに両手の数を越えている。最初の頃は「はいはい」とお座なりながらも返事を返していたけれど、片手の数を越えた頃から段々と面倒臭くなり、両手の数を越えた時にはよくもまあ同じことを何度もと呆れ果てて無視するようになった。

それにあたしには政宗の相手よりももっと重要な、何よりも優先すべき事があった。それは侍女や乳母らの誤解を解くこと。

政宗という名の変態馬鹿のせいで乱心したと思われたあたしは出産直後に抱かせてもらって以降、乳を与える時しか我が子を抱かせてもらえなかったのだ。乱心したあたしが夫だけでなく子にまで何かをするのではと危惧されたためだ。

乱心などしていない。原因は政宗が変態で馬鹿だったからだと言ってやろうかと思ったけれど、表での政宗の様子を思えば誰も信じないだろうことは明白。また万が一信じてもらえたとしても奥州筆頭独眼竜伊達政宗の名を落とすことになってしまうかもしれない。

それを思えば明かすことが出来るはずも無く、仕方なく初めて体験した陣痛の苦しさに混乱した末の、と思わせることにした。

明るく、朗らかに、笑みを絶やさず。それらを念仏のように心の中で唱えながら侍女らと接し、一日掛けてようやく陣痛が原因で今はもう正気だと思わせることに成功した。

そうしてようやく誰に阻まれることなく我が子と触れ合えるようになったのがついさっき。一日とはいえ精神的に疲れたし作った笑みを浮かべ続けた顔の筋肉が心なしか軋む。それにあたしがこんなに大変な目に、待望の我が子を取り上げられたも同然の状況に陥っていたというのに子供に夢中で全く気付いてくれなかった政宗に腹が立つ。こいつが原因だったのだから尚更だ。

何か報いてやらねば気が済まない。

「あーー」

どうしてやろうかしらと考えを巡らせていたら傍らで赤子が泣き声を上げた。

「は、Honey! Babyはどうしたんだ?」
「一々狼狽えてんじゃないわよ」

泣くのはこれが初めてじゃないのにおろおろする政宗をビシッと叱り、むつき(おむつ)に指を引っ掻け中を覗く。

「ああ、うんちしてるわ。気持ち悪くて泣いたのね」
「そ、そうか。なら交換してやらねえとな」

原因が分かるなり政宗はテキパキと侍女を呼んで新しいむつきとおしりを拭く布と湯の用意を命じた。全く役に立たない夫よりはマシよねと言い聞かせることで政宗の変わり身の早さから意識を逸らす。

「もうちょっと待っててね。今きれいにしてあげるからね」

泣き続ける我が子をあやすとむつきを解き、片手で子供の両足を持っておしりを持ち上げ用意された布と湯で汚れたおしりを拭いていく。綺麗になったら拭いた布と汚れたむつきを退けて新しいむつきを締めてやる。

「なぁ、前から思ってたんだが、Honey、子供の世話に慣れてねえか?」
「そりゃ慣れてるもの。はい、おわり」

締め終わった新しいむつきの上からぽんと軽く叩くとむつきを変えてもらってすっきりした子供は泣くのを止めて嬉しそうに笑った。それに笑い返し、汚れたものや湯を片付けてくれる侍女に礼を言う。

「言っておくけど、長屋暮らししてた頃に同じ長屋に暮らす子の世話をしたことがあるから慣れてるだけよ」
「そ、そうだよな! そういうことだよな!」

動揺して固まっている政宗に言えば政宗は分かりやすくホッとした。政宗と結婚するまであたしが男を知らない体だったのはお前が一番よく知っているだろ、と大きな溜め息を吐いた。

ああもうなんでこいつはこんなに馬鹿なのかしら。


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