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□あなたなら。
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trip連載本編春以降のある日の話


侍女さんから干菓子を貰ったから、政宗と食べようと探していたら見付けた政宗は近寄るのも声を掛けるのも勇気が居るほど苛々したオーラを全身に纏っていた。政宗、と声を掛けようと上げた手を下ろし、そろそろと後退り曲がり角まで戻り隠れる。

いったい何があったんだろう。木刀を持っていたから鍛練終わりなんだろうけれど、何か政宗の気に障るようなことが鍛練中に起きたんだろうか。

そろりと角から首だけを出して覗くと、いつの間にか成実さんが着ていて政宗に話し掛けていた。距離があるせいで何を話しているのかは分からないけれど、政宗の肩にぽんと手を置いた成実さんが何かを言うと政宗は荒々しくその手を振り払うと木刀を投げ渡しどこかへと行ってしまった。足取りもやっぱり荒々しい。

本当にどうしたんだろう。成実さんにボコボコにされた様子は無いし二人の様子からも政宗の苛立ちの原因が成実に無いらしいことは分かった。でもそれ以外はさっぱり分からないから苛立ちの原因に見当も付かない。


「成実さん!

「ん?」


政宗の姿が完全に見えなくなったのを確認してから駆け寄り、鍛練場に戻ろうとしていた成実さんを呼び止めた。首だけで振り向いた成実さんにこっちに来て欲しいと手振りで示す。


「なに? 梵なら向こうだよ。ついさっきまで居たから走れば直ぐに追い付くと思うよ」

「知ってます。さっき見てたから」


この一言で私が成実さんに声を掛けた理由を察したらしく、政宗が去った方角を見ると困ったような顔を浮かべ肩をすくめると私へと視線を戻した。


「あの通りだから何も聞かないでやってくれる? たぶん美夜ちゃんに慰められるのが一番クると思うから」

「慰める?」

「あれ? 見てたんじゃないの?」

「見たのは苛ついてる政宗の姿だけです」

「あ、そうなんだ。んー……」


悩む素振りを見せた成実さんに首を傾げる。政宗が苛ついてる原因は特殊なものかもしくは私には知られたくないようなことなんだろうか。もしそうなら無理に聞こうとは思わない。政宗が私に知られたくないなら知らないままで良い。気にはなるけど。


「ま、いっか。隠すようなことでも無いし」


何も聞かずに部屋に戻ろうと思ったところに聞こえた成実さんの台詞に思わず眼を瞬く。決意というほどでもないけど私が思ったことはなんだったんだろうと思ってしまう。


「さっきまで梵と小十郎が仕合ってたんだよ」

「政宗と小十郎さんが?」

「そ。それも割と本気に近い仕合」


本気じゃなかったのはひとえに婆裟羅者である二人が本気で仕合をしたら鍛練場の破壊どころではすまないから、らしい。政宗と幸村が仕合をした時のことを思えば納得の理由だ。


「どっちが勝ったんですか? 政宗?」


見たかったなと残念に思いながらもわくわく感もありつつ聞くと成実さんは首を横に振って否定した。


「勝ったのは小十郎だよ」

「小十郎さん? あ、だから政宗は苛々してたんだ」

「んー、まあ負けたってことだけでも悔しいんだろうけどそれだけじゃないんだな、これが」


どういうことと首を傾げた私に成実さんは俺が言ったことは内緒なと唇に人差し指を当てると他の理由を教えてくれた。


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