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□神を呪い、けれど願う。
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Trip連載本編25話のサイドストーリー


立ち去る梵の背中は見てるこっちが苦しくなるほど痛々しかった。

美夜ちゃんの不在をごまかすための理由として、病の療養のために城を離れる、ということにしたのも、死以外で美夜ちゃんの存在を城から離すという理由以外に仕方がないとはいえ美夜ちゃんの居た空間や存在場所に他の女が居るのが我慢ならなかったんじゃねぇかな、と思う。

それくらい梵の中で美夜ちゃんの存在が大きかったってことなんだろう。

どうにかしたい、してやりたい。でも、どうにもならない。死んだ人間を生き返らせる方法なんて存在しない。遺体が残らなかったのが不幸だったように思う。いくら梵でも確たる証拠があれば受け入れざるを得ないだろうから。

「どうすんの?」

「どうするも何もない。政宗様も今は感情が追い付いておられないだけで、頭では受け入れるしかないと理解しておられるはずだ」

小十郎の言葉に思わず空を見上げ嘆息する。

なんで、どうして、美夜ちゃんが。もしこの世に神や仏が居るのなら、どうしてこうも意地の悪いことばかりをする。二人を出会わせた挙げ句にこんな結末なんてあんまりだろ。

視界の端で忍が立ち去るのが見えた。綱元のことも気になった。美夜ちゃんが城を抜け出した原因は多分、綱元が何か言ったからだろう。梵と美夜ちゃんの距離がこれ以上縮まらないように。でも、その結果城下に知り合いを作ることになり、こんな結末を生んでしまった。

自責の念にかられているのは間違いないだろうけど、表向き美夜ちゃんは病に罹ったことにされるから、公に責を問われることは無い。そうしなければ美夜ちゃんが城を離れることに綱元が関わっていると周りに教えるようなものだ。本当に病なのか、という疑惑さえ生んでしまうだろう。

自分の落ち度で美夜ちゃんを死なせてしまったのに罰せられない、というのは堪えるはずだ。

梵じゃないけど、もしも美夜ちゃんが元の世界に帰ったのなら、ここよりもずっとずっと進んだ技術で命を取り留めて、そして元気になったらもう一度ここに来てくれたらいいのに。そうしてずっと梵の側で、隣で、元気に笑っていてくれたら……。

なぁ神様、仏様。ほんとにあんた達が存在するってんなら、少しくらいは幸せってやつを授けてくれよ。梵ばかり辛い目に合うなんて不公平だ。


 

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