SS

□忍の心を揺らした少女。
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Trip連載本編24話のサイドストーリー


美夜ちゃんを見送った時、どこかへ走り去る影があった。美夜ちゃんが俺を訪ねて来た時から彼女の後を着けていた影だ。美夜ちゃんの護衛の数が増えているのもそれが原因だろう。相変わらず美夜ちゃんはそのことに気付いていないみたいだけど。

少し経つと俺を監視していた忍の気配が遠ざかった。引き上げたのかと思ったが、研ぎ澄まされた忍の五感が不穏な気配を複数捉えた。

美夜ちゃんの後を着けていた男と何らかの関わりがある可能性が高い。太一の変装を解いて影に身を潜ませながら周囲を探る。忍と思われる気配と、その三倍はあるかというほどの不穏な気配。

周囲の気配も緊迫したものへと変化し、忍の気配が慌ただしく動き始めた。時折聞こえてくる金属音は刃が打ち合わさる音だ。音の出所を探って移動していた時、微かに悲鳴が聞こえた。美夜ちゃんの声に似ている。

やはりこの騒ぎは美夜ちゃんが関係していたらしい。途中、忍がごろつきや侍崩れ達を相手にしている姿を目撃しながら美夜ちゃんの悲鳴が聞こえた辺りを目指した。

神経を張り詰めさせている伊達家お抱えの忍に見つからずに移動するのはさすがに俺でも一苦労で、ようやく美夜ちゃんの姿を捉えたのは彼女が路地裏に隠れようとしている時だった。

どうやら待ち伏せを受けたらしい。増やされる前から美夜ちゃんの護衛をしていたくのいちが一人で敵と対していた。その待ち伏せしていた連中の中に、見覚えのある子供の姿を見付けた。あの子供は先日美夜ちゃんの後を着けたかと思えば城の通用門を潜る美夜ちゃんのことを、ぶつかった相手に対するものとしては不穏過ぎるほどの憎悪の感情を剥き出しにして見ていた子供だ。

気になって調べてみた結果、竜の旦那に熱心に娘を売り込んでいる男の子供だった。子供の屋敷には既に監視が付けられていたし、俺様にも監視が居たためそれ以上は調べられなかったがそれだけ分かればこの襲撃の意図など簡単に予想がつく。

古今東西、身分のある人間が邪魔な存在を排除する方法として最も用いるのは暗殺だったり策を巡らせて自害に追い込んだりとそこに至るまでの方法は様々あるが相手の命ごと始末すること。

父親は今回の戦に従軍しているはずだしここに居るということはこの計画を立てたのはあの子供なのだろう。父親に褒められたい一心か他に理由があるのか。もしぶつかったことだけが理由だったらあの子供終わってるなーなどと思っていたその時、隠れている美夜ちゃんに向かって一つの気配が近付いているのに気付いた。

ごろつき共の相手をしているくのいちが気付いた様子は無い。ごろつきの相手に手一杯といった感じだ。ごろつき共の数は多いがあのくのいちの腕は悪くない。なのにまだ片付かないのはどうやら相手を殺さずに片付けようとしているためらしい。他の忍がまだこちらに来ないのはそいつらも同じ理由なのかもしれない。

騒ぎを大きくしないためか、それとも美夜ちゃんが居るからか。さすがにこればかりは想像するしかない。それよりもと、美夜ちゃんが隠れる路地裏が見渡せ、尚且つ声も聞ける位置の屋根に移動した。

程なくして現れたのは一目で姫として育てられたと分かる娘だった。言葉だけでなく態度や顔にも高飛車でキツいだろう性格が如実に現れている。懐刀を振りかざし、殺しはしたくないと言いながらも躊躇いは微塵も感じられない。美夜ちゃんを下賎の女と蔑んでいるからだろう。

俺様から言わせればあんたは身分が良くとも中身は卑しい小娘に思えるけど。美夜ちゃんは表情豊かで良くも悪くも正直で、驚くほど律儀だし礼儀正しい。

城下で良い噂ばかりが流れているのは城で働く、実際に美夜ちゃんと接したことのある人間が美夜ちゃんのことを慕っているからだろう。この女では天地がひっくり返っても得られないだろうものだ。

くのいちはまだ美夜ちゃんに迫る危機に気付いていない。このままなら美夜ちゃんは殺されるだろう。美夜ちゃんには逃げるだけの体力が残っているようには見えなかった。


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