SS

□らしくない。
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その後、一旦その場は配下に任せて報告に戻った。そうして他の場所への情報収集に飛び回っているうちに月日が流れ、秋になった時、伊達軍が出陣するという報告が届いた。

独眼竜と右目が留守になれば潜入の機会が出来るはず、と急遽奥州に向かった。だが彼女のことを探りに間者が来ることはやはり予想済みだったようで上手く忍び込む好機を探ることにした。

そんな時だった。城から出てきた荷車の違和感に気付いたのは。荷を下ろして戻ってきたはずの荷台がほんの僅かに片側に傾いていたのだ。荷台には子供達が乗っていたが傾きがどうにも気になった。然り気無く近付き探れば荷台に子供達の他に潜めた人の気配を感じた。まさかと思い後を着ければ到着した先で人目を避けて荷台から降りてきたのはあの少女だった。

これまでにも何度か城下に降りて来ているという報告はあったが、隣には常に独眼竜の姿があったという。だが今回は彼女一人。なぜ荷台に隠れていたのかは分からないがこの機会を逃す手は無いと急ぎ潜伏する時の姿に変装した。彼女には護衛だろうくのいちが密かに着けられていたがバレないように後を追うのは俺様には容易いこと。

そうして人気の無い神社の一角でうずくまった彼女を気遣うふりをして接触した。荷車に隠れていたこともそうだが歩いている時から様子がおかしかったが顔を見ると何かに悩んでいる風だった。まさに絶好の機会。相談に乗るふりをして多少なりとも情報を引き出して、と思っていたのに気付けば真面目に相談に乗ってしまっていた。

しまったと思ったのは彼女を見送った後という体たらく。得られた情報は相談内容から察するに彼女は竜の旦那とはかなりの身分差があるらしい、ということだけ。良家の子女らしくない言動から以前から推測していたことが確信に変わっただけ。

全く何やってんだか。せっかくの好機だったってのに。俺様らしくない。それもこれもきっとあの子のせいだ。

これまで観察してきた姿は表情豊かでいつも明るく元気な子、という印象を持たせるもの。だからこそあんなに元気の無い姿を見せられたら放っておけない気分になるのも仕方ない……。言い訳、だな。ほんとに俺様らしくない。というより忍らしくない。己の感情に左右されるなんて。

「…………」

こちらを伺う気配が出現した。と言っても俺様くらい優秀な忍でなければ気付かないほどその気配は上手く隠されている。

その気配は俺様を警戒するのではなく、あくまで様子を伺う体だ。変装が見破られたのではなく、彼女にとって真実害の無い人間かどうか探っている、というところか。

へまをしなければまだしばらくは騙せるだろう。今後のことを考えれば警戒されるわけにはいかない。これまで以上に慎重に動く必要がある。それに、なんとなくだが近いうちにまた彼女に会えそうな予感がした。

ああ、またらしくない。忍が予感を当てにするなんて。一流の名が泣くよ。


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