この蒼い空の下で 弐

□53
4ページ/4ページ



「小十、郎……美夜、は」


記憶が戻っても体を襲う酷い疲労はどうにもならず、小十郎によって体を起こされながら問えば片手で俺を支えたまま手を伸ばした小十郎はまず美夜の顔に手をかざし、次に首筋に指を当てた。


「ご安心ください。呼吸に乱れは無く、脈も規則正しく、力強く打っております」

「そう、か」


成功した。良かったと、再び安堵の吐息が零れた。体からも力が抜ける。そのせいで先程よりも酷い目眩に襲われたが、それが気にならないほど大きな喜びと安堵を感じていた。

男の俺が突然体にのし掛かってもその重さに呻き声一つ上げなかったために心配したが、それはまだ本当の意味では全てが終わったわけでは無いからだろう。まだまだ油断は出来ないが、それでもこれでもう美夜を失う可能性は消えた。俺の様子から小十郎もそれを悟ったのだろう。見れば小十郎の顔にも安堵と喜びの笑みが浮かんでいた。


「どれくらい…経った」

「およそ一日程です。今は翌日の夜明けを迎えて半刻(約一時間)程過ぎた頃にございます。懸念していた事は何も起きておりません。また、兵を始め城中の者達の間にも美夜が倒れたことは広まっているようですがそれによる動揺や騒ぎは起きておりません」


まさに一を聞けば十を答える。全てを聞かずとも俺の知りたいことを伝えてくれる小十郎の頼もしさに自然と笑みが浮かぶ。だがそれも束の間、そろそろ我慢も限界に近付いた疲労とそれに付随する目眩による不快感にに喉の奥で呻いてしまう。


「政宗様、隣に布団を用意させます。何事かあれば直ぐにお起こしします故、今はお体をお休めください」


ままならない体に苛立つ俺を制する言葉に本音を言えば平気だと言い返したかったが強がりすら出来ない状態。正直、何度か意識が飛びそうになった。悔しいが今は小十郎の言葉を聞き入れることにし素直に頷きを返した。

直ぐに侍女が呼ばれ、美夜の隣に布団が敷かれた。不安げに見詰めてくる侍女に美夜は大丈夫だと視線と頷きで伝えれば感極まった様子で深く頭を下げると事情を知る他の者達にも伝えるためにだろう。侍女は足早に部屋を出ていった。

ここでも小十郎の手を借りて立ち上がり、布団へと移動する。ほんの数歩の距離だというのに疲労した体は重く感じ、小十郎に支えられながらだったにも関わらず横になったには息が上がっていた。瞼を開けていることすら辛く、閉じたことで急速に落ちていこうとする意識をギリギリのところで何とか繋ぎ止める。


「小十郎、美夜に、触れること、に……問題は、無ぇ……。あいつらに……そう、伝えろ。世話を、頼む、と」

「は」

「体、が……重ねられな、かった……時間、を……取り戻せ、ば……目覚め、る」

「それは、どれくらい掛かるのでしょうか」

「数、日……長くて、も……十日程、らし、い……」


話すだけでも疲れ、だが必要なことは伝えたと大きく息を吐いた次の瞬間には今度こそ繋ぎ止める間も無く意識を落とした。


次の章へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ